落ちこぼれ魔女・火花の魔法改革!〜孤独なマーメイドと海の秘宝〜
第44話
「フィジカル・マジカル。シュナにどうか、あたたかな世界を。みんなに届く声をあげて!」
ステッキの先から星屑がほとばしり、シュナを取り囲む。
星屑はきらきらと瞬き、大きな光の束となってシュナを覆い尽くした。
「シュナ……!」
「お願い……っ!」
ドロシーやダリアンが強く祈る。
私も祈る思いで光の束を見つめた。
そして――。
満月を包んでいたヴェールが消える。
薄紫色をしていた空は、次第に赤くなり、白くなった。
波の音が静寂を満たす、朝焼けの海。
目の前の光景に、私は心の底から感動した。
目の前に、可愛らしい人間の少女がいる。
白いヴェールに包まれた、金色の髪の少女。
ぱち、と金色の睫毛が揺れた。
「シュナ……?」
恐る恐る声をかけると、少女が私を見た。
「……ひ、ばな……?」
拙い口調で、少女が言う。
「シュナ、声がっ……!!」
「足もあるよっ!」
「やった! 成功だ!!」
「すごい、火花ちゃんっ!」
ドロシーが私に飛びついてくる。
「やった……! できた……!!」
私とドロシーはシュナの元へ駆け出した。
「シュナ! すごい、ちゃんと人間の女の子になってるよ!」
「火花……! 私、喋れてる!」
「うん! 喋れてる!」
すごいすごい!
私、特別な魔法を成功させたんだ!
「やった~!!」
「シュナ」
シュナを震える声が呼んだ。
王妃様と国王様だ。
「お父様、お母様」
シュナは産まれたての子鹿みたいな覚束なさで、砂浜を歩く。
「シュナ……あぁ、シュナが喋ってる……! 声が聴こえる」
王妃様は泣きながらシュナを抱き締めた。
「ずっとあなたの声が聴きたかった……!」
「お父様、お母様……私も、ずっとふたりに伝えたかった」
シュナはふたりに抱きつき、透明な涙を流して言った。
「愛してる……! 私を産んでくれて、育ててくれてありがとう」
「シュナ……」
王妃様はさらに泣き出し、国王様も瞳をうるませている。
よかった……やっぱり、言葉の力ってすごいんだなぁ……。
ひとしきりシュナの体を喜ぶと、グラアナが控えめに口を開いた。
「シュナ。そろそろ行かないと。いろいろやらないといけないことがあるから」
こくりと頷き、王妃様たちと離れる。
「シュナ、元気でね。グラアナ、シュナのことをよろしくお願いします」
「王妃様、心配しないで! シュナには私たちもいるし!」
「そうね。心強いわ」
「シュナは強いから、きっと大丈夫!」
「ちょくちょく顔を見せに来るんだよ」
「それから、グラアナ。あなたの家は新たに私たちが住むアトランティカの中に作っておくわ。いつでも好きなときに海へ来られるように」
「え……」
「あなたはシュナの恩人ですもの。もちろん、こんなことであなたにしてしまったことが消えるとは思ってないけど……」
王妃様の言葉に、今度はグラアナが涙を滲ませた。
「……いえ。ありがとう。それなら、シュナとも安心して里帰りすることができるわ」
「嬉しい。お母様、ありがとう!!」
高い高い空の上で、鳥がさえずる。
静かだった街が動き出す。朝だ。
「ん……朝?」
あれ、朝ってことは……結構ヤバくない?
「今からほうきダッシュして……学校に着く頃ちょうど登校時間。さて、バレないで戻れるかな~」
ノアくんが大きく伸びをしながら言った。
「きゃ~急げ!! みんなが起きる前に学校に戻らないと!!」
「もしバレたら、今度こそ火花は退学かしらね」
「そんなぁ! ダリアンってば、縁起でもないこと言わないでよ~」
「ふふっ。火花ったら」
「もうシュナまで! 笑いごとじゃないよ~!」
ノアくんたちはその間にもほうきに乗っている。
早っ!
「それじゃあシュナ、グラアナ。またあとでね」
私も置いていかれないように慌ててほうきを出し、またがる。
「……火花」
空へ飛び上がると、グラアナに声をかけられた。
「ん? なに?」
グラアナは朝日に目を細め、私に言った。
「ありがとう。あなたは、落ちこぼれなんかじゃない。立派な魔女よ」
「……えへへっ。でしょっ!」
「そんな素敵な魔女さんに、これをあげる」
グラアナがぽんっとなにかを投げた。
「わわっ……だっ!?」
慌ててキャッチしようとしたけど、失敗。
顔面にクリティカルヒットした。
「あたた……」
「おい、大丈夫?」
代わりにノアくんがキャッチして、私に手渡してくれた。
「相変わらず鈍臭いんだから」
「今のは不意打ちだったからだよっ! ……って、これ……」
手の中には、星の原石。
「グラアナ! これって……」
「あなたにあげるわ。元々これ目当てだったんでしょ?」
えっ、私そんなこと言ったっけ?
「実はね、魔法であなたたちのことこっそり覗いてたのよ」
「ええっ!? いつから!?」
「あなたとドロシーがシュナと出会って、私の悪口言ってる辺りから?」
悪口って……。
「あっ! もしかして、シュナの話を聞いてたとき、私の頭になにか飛んできたのって」
「ちょっとイラッときたんでね」と、グラアナはぺろっと舌を出した。
悪びれてないし! 絶対悪いと思ってないよね!?
「ひどい!」
あれ、結構痛かったんだよ!?
まさかグラアナの仕業だったなんて!
「あら。一方的に悪口を言うほうが悪いのよ」
それはたしかに……。
「ごめん」
「もういいわ。あなたの場合、私の悪口っていうよりシュナのために怒ったって感じだったし。ま、だからそのお詫びも兼ねて、それをあげるって言ってるのよ。ありがたく受け取りなさい」
手の中には、大きな星の原石。
「……いいの? これ、とっても貴重なものだよ? 売ったらすごく高いんだよ?」
売るんかい、ととなりにいたノアくんにツッコまれた。
「う、売らないよ! 売らないけどさ!」
「ふふ。べつに売ってもいいわよ」
「だから売らないってば!」
「私、これでも海にいたときに沈没船に残された宝石やなんかを山のように集めてたから、あなたと違ってお金はあるのよね。シュナひとり養うくらいどうってことないから」
「あ、それなら私も、この真珠、売れるかなって思ってこっそり持ってきた」
マジか!
「まぁ! さすがだわ、シュナ! マーメイドの涙ってとっても希少価値が高くて、高額で売れるのよ!」
「ぐぅ……ふたりして羨ましい。私も一個くらい持ってくればよかった」
「ふふふ」
「火花ちゃーん! 早く行くよ!」
ドロシーに呼ばれ、ハッとする。
「今行く!」
ドロシーに返事をしてから、グラアナとシュナに視線を戻した。
「ありがとう! じゃあ、これはありがたくもらっていくね! またね! グラアナ、シュナ! 元気で!」
「またね、火花!」
私たちはふたりに大きく手を振り、学校へほうきダッシュした。
「長い夜だった~!」
「そう? あっという間じゃなかった?」
「なんか、わくわくした」
ドロシーの言葉に、ノアくんがふっと笑った。
「ドロシーも火花に感化されて、ちょっと悪い子になってきたね?」
「そそ、そんなことないよ!」
慌てるドロシーを見ながら、私はくわっと欠伸をした。
「あぁ~眠いっ!」
空を駆けながら、両手を広げる。
「でもなんか、すっごく気持ちいいや」
「私も! 怖かったけど、いいことした気分!」
「まったくあなたたちは呑気なんだから……分かってる!? 私たち、学校を抜け出して夜遊びしてたのよ!? バレたらタダじゃ済まないんだからね」
「あ~俺たちはまだ大丈夫だろうけど、火花はそろそろヤバいかなぁ」
「大丈夫だよ! だって悪いことしてないもん」
「いや、門限過ぎた学校を抜け出すこと自体が悪いことだからな?」
「うっ……で、でもほら、こうして星の原石を手に入れたわけだし」
「結果論だけどな」
私たちはぎゃいぎゃい言い合いながら、目覚めたばかりの街を抜けて学校に戻ったのだった。
ステッキの先から星屑がほとばしり、シュナを取り囲む。
星屑はきらきらと瞬き、大きな光の束となってシュナを覆い尽くした。
「シュナ……!」
「お願い……っ!」
ドロシーやダリアンが強く祈る。
私も祈る思いで光の束を見つめた。
そして――。
満月を包んでいたヴェールが消える。
薄紫色をしていた空は、次第に赤くなり、白くなった。
波の音が静寂を満たす、朝焼けの海。
目の前の光景に、私は心の底から感動した。
目の前に、可愛らしい人間の少女がいる。
白いヴェールに包まれた、金色の髪の少女。
ぱち、と金色の睫毛が揺れた。
「シュナ……?」
恐る恐る声をかけると、少女が私を見た。
「……ひ、ばな……?」
拙い口調で、少女が言う。
「シュナ、声がっ……!!」
「足もあるよっ!」
「やった! 成功だ!!」
「すごい、火花ちゃんっ!」
ドロシーが私に飛びついてくる。
「やった……! できた……!!」
私とドロシーはシュナの元へ駆け出した。
「シュナ! すごい、ちゃんと人間の女の子になってるよ!」
「火花……! 私、喋れてる!」
「うん! 喋れてる!」
すごいすごい!
私、特別な魔法を成功させたんだ!
「やった~!!」
「シュナ」
シュナを震える声が呼んだ。
王妃様と国王様だ。
「お父様、お母様」
シュナは産まれたての子鹿みたいな覚束なさで、砂浜を歩く。
「シュナ……あぁ、シュナが喋ってる……! 声が聴こえる」
王妃様は泣きながらシュナを抱き締めた。
「ずっとあなたの声が聴きたかった……!」
「お父様、お母様……私も、ずっとふたりに伝えたかった」
シュナはふたりに抱きつき、透明な涙を流して言った。
「愛してる……! 私を産んでくれて、育ててくれてありがとう」
「シュナ……」
王妃様はさらに泣き出し、国王様も瞳をうるませている。
よかった……やっぱり、言葉の力ってすごいんだなぁ……。
ひとしきりシュナの体を喜ぶと、グラアナが控えめに口を開いた。
「シュナ。そろそろ行かないと。いろいろやらないといけないことがあるから」
こくりと頷き、王妃様たちと離れる。
「シュナ、元気でね。グラアナ、シュナのことをよろしくお願いします」
「王妃様、心配しないで! シュナには私たちもいるし!」
「そうね。心強いわ」
「シュナは強いから、きっと大丈夫!」
「ちょくちょく顔を見せに来るんだよ」
「それから、グラアナ。あなたの家は新たに私たちが住むアトランティカの中に作っておくわ。いつでも好きなときに海へ来られるように」
「え……」
「あなたはシュナの恩人ですもの。もちろん、こんなことであなたにしてしまったことが消えるとは思ってないけど……」
王妃様の言葉に、今度はグラアナが涙を滲ませた。
「……いえ。ありがとう。それなら、シュナとも安心して里帰りすることができるわ」
「嬉しい。お母様、ありがとう!!」
高い高い空の上で、鳥がさえずる。
静かだった街が動き出す。朝だ。
「ん……朝?」
あれ、朝ってことは……結構ヤバくない?
「今からほうきダッシュして……学校に着く頃ちょうど登校時間。さて、バレないで戻れるかな~」
ノアくんが大きく伸びをしながら言った。
「きゃ~急げ!! みんなが起きる前に学校に戻らないと!!」
「もしバレたら、今度こそ火花は退学かしらね」
「そんなぁ! ダリアンってば、縁起でもないこと言わないでよ~」
「ふふっ。火花ったら」
「もうシュナまで! 笑いごとじゃないよ~!」
ノアくんたちはその間にもほうきに乗っている。
早っ!
「それじゃあシュナ、グラアナ。またあとでね」
私も置いていかれないように慌ててほうきを出し、またがる。
「……火花」
空へ飛び上がると、グラアナに声をかけられた。
「ん? なに?」
グラアナは朝日に目を細め、私に言った。
「ありがとう。あなたは、落ちこぼれなんかじゃない。立派な魔女よ」
「……えへへっ。でしょっ!」
「そんな素敵な魔女さんに、これをあげる」
グラアナがぽんっとなにかを投げた。
「わわっ……だっ!?」
慌ててキャッチしようとしたけど、失敗。
顔面にクリティカルヒットした。
「あたた……」
「おい、大丈夫?」
代わりにノアくんがキャッチして、私に手渡してくれた。
「相変わらず鈍臭いんだから」
「今のは不意打ちだったからだよっ! ……って、これ……」
手の中には、星の原石。
「グラアナ! これって……」
「あなたにあげるわ。元々これ目当てだったんでしょ?」
えっ、私そんなこと言ったっけ?
「実はね、魔法であなたたちのことこっそり覗いてたのよ」
「ええっ!? いつから!?」
「あなたとドロシーがシュナと出会って、私の悪口言ってる辺りから?」
悪口って……。
「あっ! もしかして、シュナの話を聞いてたとき、私の頭になにか飛んできたのって」
「ちょっとイラッときたんでね」と、グラアナはぺろっと舌を出した。
悪びれてないし! 絶対悪いと思ってないよね!?
「ひどい!」
あれ、結構痛かったんだよ!?
まさかグラアナの仕業だったなんて!
「あら。一方的に悪口を言うほうが悪いのよ」
それはたしかに……。
「ごめん」
「もういいわ。あなたの場合、私の悪口っていうよりシュナのために怒ったって感じだったし。ま、だからそのお詫びも兼ねて、それをあげるって言ってるのよ。ありがたく受け取りなさい」
手の中には、大きな星の原石。
「……いいの? これ、とっても貴重なものだよ? 売ったらすごく高いんだよ?」
売るんかい、ととなりにいたノアくんにツッコまれた。
「う、売らないよ! 売らないけどさ!」
「ふふ。べつに売ってもいいわよ」
「だから売らないってば!」
「私、これでも海にいたときに沈没船に残された宝石やなんかを山のように集めてたから、あなたと違ってお金はあるのよね。シュナひとり養うくらいどうってことないから」
「あ、それなら私も、この真珠、売れるかなって思ってこっそり持ってきた」
マジか!
「まぁ! さすがだわ、シュナ! マーメイドの涙ってとっても希少価値が高くて、高額で売れるのよ!」
「ぐぅ……ふたりして羨ましい。私も一個くらい持ってくればよかった」
「ふふふ」
「火花ちゃーん! 早く行くよ!」
ドロシーに呼ばれ、ハッとする。
「今行く!」
ドロシーに返事をしてから、グラアナとシュナに視線を戻した。
「ありがとう! じゃあ、これはありがたくもらっていくね! またね! グラアナ、シュナ! 元気で!」
「またね、火花!」
私たちはふたりに大きく手を振り、学校へほうきダッシュした。
「長い夜だった~!」
「そう? あっという間じゃなかった?」
「なんか、わくわくした」
ドロシーの言葉に、ノアくんがふっと笑った。
「ドロシーも火花に感化されて、ちょっと悪い子になってきたね?」
「そそ、そんなことないよ!」
慌てるドロシーを見ながら、私はくわっと欠伸をした。
「あぁ~眠いっ!」
空を駆けながら、両手を広げる。
「でもなんか、すっごく気持ちいいや」
「私も! 怖かったけど、いいことした気分!」
「まったくあなたたちは呑気なんだから……分かってる!? 私たち、学校を抜け出して夜遊びしてたのよ!? バレたらタダじゃ済まないんだからね」
「あ~俺たちはまだ大丈夫だろうけど、火花はそろそろヤバいかなぁ」
「大丈夫だよ! だって悪いことしてないもん」
「いや、門限過ぎた学校を抜け出すこと自体が悪いことだからな?」
「うっ……で、でもほら、こうして星の原石を手に入れたわけだし」
「結果論だけどな」
私たちはぎゃいぎゃい言い合いながら、目覚めたばかりの街を抜けて学校に戻ったのだった。