最強風紀委員長は、死亡フラグを回避しない
 生徒たちの間で交わされる疑問が、波のように膨れ上がる。

 強固結界の発動まで、あと十一秒。サードは胸の中で秒読みを続け、学園へ向かって踵を返した。

「委員長っ!」

 その時、生徒たちの中からそう叫ぶ声が聞こえた。思わず振り返ってみると、リューや見知った風紀部員の顔が目に留まった。

 昔、地下研究施設で教わった「さよなら」という感情は、よく分からない。やっぱり自分らしい言葉が一番だろう。

 サードは大きく息を吸うと、風紀委員長という与えられていた設定を捨てて、勝気な笑みを浮かべ、元気良く大きく手を振って見せた。

 生徒や教員や衛兵といった全員が、揃って目を見開いた。眉間の皺もなく楽しげに笑うその顔は、苦労も不幸も、緊張も責任も知らない少年のもので、まるで物々しい周りの様子を思わせないほどに明るかった。

「じゃあな!」

 今度こそ『さよなら』だ。

 そう爽やかに告げて、サードは学園の敷地内に向かって駆けた。「委員長!」「待って下さい!」と悲鳴のような声が上がり、正門に押し寄せる風紀委員会のメンバーを騎士たちが取り押さえる。

 その時、二羽の鷹が猛スピードでサードを追い抜いていった。「えッ」と声を上げる暇もなく、鷹は校舎の向こう側へと旋回して見えなってしまう。

 その直後、灰色の厚い強固結界が、空まで高く伸びて学園を封鎖した。正門の外で飛び交い、溢れていた騒々しい音と声の全てが遮断されて、そこはピタリと静まり返ってしまった。
< 177 / 345 >

この作品をシェア

pagetop