イケメン過ぎる後輩くんは、可愛い先輩を甘やかしたい。
苦くて甘い、初恋の味。
「別れちゃったの!?」
茉穂ちゃんが大きな声を出して、女の子たちの視線が一斉に教室の隅に寄せられた。
それは月曜日の帰りのHRが終わった直後のことだった。
「ちょっ、茉穂……!」
トモちゃんが小声で茉穂ちゃんを叱責して、茉穂ちゃんがごめん、と口元を押さえる。
それを聞いた女の子たちからは「やった」とか「そりゃそうだよー」とか、嬉しそうな声が惜しげもなく上がる。
もうそれを気にする気力も残ってない私は、力なく笑った。
「なんで……?彩美、依澄くんに惹かれてたよね」
「ごめん、もしかして私が変なこと言ったから……?」
心配そうな顔をする二人に、私は何とか口角をあげて首を横に振る。
「依澄くんには、いい人がいたみたいで」
「え……?」
「中学の時に両想いだった元カノさんに会ったの。〝返して〟って言われた。今もまだ好き同士だからって」
「え…でも、それならなんで赤澤くんは彩美と……」
「元カノさんと別れて自暴自棄になって、私を元カノさんの代わりにしてたみたい」
笑いながら言う私に、2人が押し黙った。
「冷静に考えたら、納得だよね。やっぱり引く手数多の依澄くんが私なんかわざわざ選ぶの、ありえないし」
「彩美……」
二人が切ない顔で私を見るから。
昨日出し尽くしたと思っていた涙が、ほろりと出てきてしまった。
「っ、ごめん、ちょっとトイレ……っ」
私は急いで立ち上がって、顔を俯かせて廊下に飛び出した。