離婚記念日
太一くんは早々に就職が決まった。
希望通りの証券会社だった。銀行からの内定も出ていたようだが、そちらは蹴ってしまった。
それにしてもこんなに早く決まってしまうのも、大手から内定をいくつも取るのも本当にすごい。
実は在学中にTOEICでもかなりの成績を出していたらしく、それも優位になったと話していた。
太一くんの就活が終わるとあとは卒論だけ。
合間を見てはまたラグビーも子ども食堂にも顔を出すようになった。私との時間もまた増えてきて嬉しい。
私たちの関係もあれから変わった。

「就職したら一人暮らしになるから莉美がいつでも来れるよ。今から楽しみだな」

私もちょっと楽しみ。
どうしても実家同士の私たちは外でしか会えない。ゆっくり過ごすには時間の限りがある。だから麻美のように福田先輩の家で過ごすのに憧れを感じていた。

そして彼は宣言通り、卒業すると同時に実家を出て一人暮らしすることになった。
卒業式では私の涙が止まらず、もう大学で会えない寂しさが抑えきれなかった。

「莉美。卒業しても変わらないよ」

慰めてくれるけれど、もうここで会うのもすれ違うのも無くなるのだと考えただけで胸が締め付けられる思いだった。
その上、太一くんに告白する子が後をたたなかったのもショックだった。私と付き合ってるのは知られているはずなのに、今日が最後だからと何人も彼を呼び出していた。
社会人になったら今よりもさらにモテるだろう。
太一くんを繋ぎ止めておける自信なんてない。
今だって可愛い子に告白されて彼の気持ちがぐらついたら、と思うだけで心配でたまらない。
そんな私の気持ちを知ってか、太一くんは合鍵を渡してくれた。

「やましいことなんてない、だからいつでも莉美に来てほしい」

鍵を握りしめ、私は彼の卒業を見送った。
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