離婚記念日
友永さんがいなくなった後、私はどれだけこうしていたのだろう。
手にしたカフェオレを口にすると冷え切っていた。
ふと気がつくとバッグにしまってあったスマホが揺れていた。
取り出すと着信は太一くんから。

「はい」

『あ、莉美? 今日遅いのか?』

大変だ。いつもなら遅くなる日は必ず連絡をしていた。ハッと時間を確認すると20時をすぎていた。

「ごめんなさい。後10分で着くからね」

私はそう言うと慌てて店を出た。
走るように家へ帰ると太一くんはお風呂を沸かしてくれていて、キッチンに立ち、夕飯を作ろうとしていた。

「おかえり」

「ただいま。ごめんね、遅くなっちゃった」

洗面所で手を洗うと私はエプロンをつけながらキッチンに来た。

「ごめん、代わるから。太一くんはお風呂入ってきて」

「大丈夫だよ。莉美だって疲れてるんだから」

慌てる私の頭にポンと手を乗せる。
こんな優しい太一くんと離婚しなければならないの?
ふと先ほど友永さんに言われた言葉が蘇ってきた。と同時に涙がポロリとこぼれ落ちた。

「どうした?」

「ううん。太一くんが優しすぎて涙が出ちゃった」

へへへ、と泣き笑いすると涙を拭いてくれ頭を撫でてくれた。

「莉美が好きなんだから大切にするに決まってるだろ」

その言葉にますます涙が溢れてしまった。私たちの間に間違いなく愛情はあるのだと噛みしめた。
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