離婚記念日
「莉美、出張から帰ってきたら結婚1周年のお祝いをしようか。最近忙して外食してないだろ? たまにはゆっくり外でしないか?」

何も気が付いていない太一くんの言葉に胸が締め付けられる。太一くんを裏切っている自分が傷つくのは間違っている。でも太一くんのためと思えば私は笑うことができた。

「うん。楽しみにしてる」

出張前日まで私たちは何も変わりなく過ごした。
いつも通り、変わりなく…。
一緒のベッドで寝て、ご飯を食べて、笑い合い、身体を重ねた。
むしろいつもよりくっついていたかもしれない。
この温もりを忘れたくない。あと数日とカウントし、心で泣きながら彼に触れていた。

いよいよ明日は太一くんの出張。そして私の引っ越しの日だ。
結局友永さんがおまかせパックを頼んでくれ、スムーズに引越しができるよう手配してしまった。引越し先は探らないで欲しいと約束してもらった。彼は私と太一くんが離婚すればもう関わらないと言ってくれた。
すでに退職した私は太一くんに見つからないよういつも通り一緒に出勤していたが、彼と別れた後いつも家に戻っていた。今日もそう。
最後の夕飯だけは私が手によりをかけ作ることに決めていたので、太一くんには半休だと嘘をついていた。手抜きをしてばかりだった私が堂々とご飯を作るための嘘だ。
太一くんの好きな煮込みハンバーグ、マカロニサラダ、シーフードマリネ、オニオングラタンスープ。他にもたくさん作りたくなってしまうが、流石にこれ以上は食べられない。仕方なくデザートにチーズケーキを焼いた。掃除も念入りにした。今まで気がつかなかった埃や汚れが出てきて、どれだけ私が手を抜いていたか、太一くんに我慢をさせていたかを反省した。
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