離婚記念日
翌朝。
飛行機の時間に合わせて、いつもより早く家を出る太一くんを玄関まで見送った。

「気をつけてね。身体に気をつけてね。無理しちゃダメだからね」

今日が最後だと思うと声をかけたいことはたくさんある。

「3日で帰るんだから大袈裟だな。行ってくるよ」

私の頭を撫でるとスーツケースを手に玄関を出て行った。

太一くん……。
玄関で崩れ落ちるように座り込むと、我慢していた涙が堰を切るように溢れ出てきた。声も抑えられず、嗚咽が部屋に響き渡る。

大好きだった。
太一くんが私の全てだった。
でも私では彼を幸せにしてあげられない。
ごめんなさい。
いつまでも、どこにいてもあなたの幸せを祈っているから……。

私のバッグに入った離婚届を震える手で取り出した。3日前に友永さんから直接渡されたものだ。
この数日、バッグの中の封筒を見るたびに胸が締め付けられる思いだった。
何も記入されていない紙に私は記入を始めた。そして最後に『片寄莉美』とサインした。これが太一くんの名字を使う最後になるだろう。
ダイニングテーブルに離婚届の入った封筒を置くと引っ越し屋さんと共に荷物をまとめ、あらかじめ決めておいた海の見える部屋へ引越した。
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