離婚記念日
スマホの番号は変えてしまったので連絡が来るのは母からと麻美くらい。しばらくはそれ以外の人と連絡を取るつもりはない。
最近は放りっぱなしだったスマホが突然着信を告げた。

「はい」

「早瀬莉美さんですか?」

「はい」

スマホに表示されていたのは弁護士事務所だった。表示を見てドキリとした。
前回連絡が来たのは太一くんのマンションを出る時。
離婚届の扱いと慰謝料についてだった。
私は当初の通り、慰謝料の受け取りは拒んだ。そして今後太一くんとは接触しないというご両親からの要求は無条件にのむ形になった。

「今日無事に離婚届が受理されました」

冷淡な弁護士の声に私は何も言えずにいたが、淡々と必要な説明だけすると電話を切られた。

あぁ……離婚してしまった。
太一くん、ごめんね。
太一くんより好きになれる人なんて今後現れるわけがないよ。
太一くんが私を大事に思っていてくれてるって知ってるのに、傷つけてごめんね。

私はクッションを抱きしめ、顔に押し当てた。嗚咽が漏れないようにギュッと抱え込んだ。

あぁ……。
これで本当に終わってしまった。
太一くんはサインをしたんだ。
自分が身勝手に書いて置いてきた離婚届なのに、太一くんがいつまでもサインをしないでくれたら、なんて都合よくどこかで思っていた。
今日までどれだけ泣いたかわからない。
もう涙は枯れ果てたかと思っていたのに、まだとめどなく流れ出てくる。
彼のことを考えるたび、心の中に彼への気持ちが溢れ出てくる。彼以上の人にはもう巡り会えないし、彼以外の人と付き合いたいとも、結婚をしたいとも思えない。太一くんとのことは人生で最初で最後の恋だと思った。
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