離婚記念日
やっと落ち着き始めていた気持ちがまた落ち込んでいた。
食べ物を見るたびに気持ち悪くなる。
最近はご飯も食べられず、飲み物も流し込むだけ。

「莉美ちゃん、大丈夫?」

後ろから通子さんに声をかけられた。
振り返ろうとした時に立ちくらみがし、私はその場に座り込んでしまった。

「あ、ちょっと……」

すぐに手を伸ばしてくれ、私を抱えながら近くにあった席に座らせてくれた。
旦那さんがお水を持ってきてくれ、一口飲むと少し気持ち悪さが落ち着く。

「ねぇ、最近調子悪そうよ。病院に行ってみたら?」

確かにあの電話が来てからガタガタと体調を崩してしまっている。食事も取れていない。仕事で迷惑をかけるわけにはいかないので、私は半休をもらうと通子さんに教えてもらった病院を受診した。
問診の後に採血と尿検査をされた。結果は1時間程度で出るそうで、待ち合いに座りながらぼうっとしていた。

「早瀬さん」

ようやく結果が出たのか、私は診察室に呼ばれた。
中に入ると先ほど問診をしてくれた医師が座ってパソコンを見ていた。
私が椅子に座ると向かいあい、結果の説明を始めるがその前に思いもよらなかった質問をされた。

「最後の生理はいつですか?」

「え?」

「尿検査で妊娠反応がありました。このあと婦人科できちんと診てもらったほうがいいと思います」

妊娠反応?
まさか……。
目の前が真っ白になってしまった。太一くんとはもう少しふたりだけの生活を楽しもうと相談し、妊娠しないように気を付けていたのに。
子供はもちろん大好き。いつかは私たちも子供が欲しいと思っていた。
でもまさか離婚した今だなんて……。
いつの間にやら診察が終わり、看護師に案内され私は婦人科の待合いに座っていた。
ふと気がつくと、周りにはお腹の大きな妊婦さんが目に入ってきた。旦那さんと一緒に来ている人もいる。みんな幸せそうな人ばかりだ。
顔を上げられず、私は膝の上のバッグをギュッと握り締めた手を見つめていた。
< 31 / 66 >

この作品をシェア

pagetop