離婚記念日
家に帰ろうと病院を出ると小雨が降っていた。
あまりの出来事に呆然とし、私は歩き始めた。
どこを歩いてきたかよく覚えていなかったが、気がつくとお店の前にいた。

「莉美ちゃん?」

通子さんが気がついてお店から出てくると、手を引かれ、バックヤードへ連れてこられた。タオルを取り出すと濡れた髪や体を拭いてくれる。

「どうしたの?」

私の背中をさすってくれる手は温かくて、優しくてまた涙が溢れてきてしまった。

うぅ……うわーん。

鳴き声を抑えられず、私は声を上げて泣き始めてしまった。そんな私の様子に通子さんは隣に座り、ひたすら背中をさすり、抱きしめてくれた。

「あ、赤ちゃんが……いなくて」

「赤ちゃん?」

「赤ちゃんが育たなかったって……」
 
細切れに話す私の話に通子さんはただ、聞き役になってくれた。

「赤ちゃんがいないから手術で」

「手術をするの?」

コクリと頷くと通子さんは驚いた表情を浮かべていた。

「妊娠していたみたいなのに、赤ちゃんに気が付かなかった。だからいなくなっちゃったのかもしれない」

「そんなわけないわ。莉美ちゃん! 莉美ちゃんのせいじゃない」

通子さんは肩をギュッと抱き寄せ、私を抱きしめてくれた。

「莉美ちゃんのせいじゃない」

通子さんの言葉に救われる気がした。
でも赤ちゃんが育たなかったのは事実だ。
生理がなくなっていたのに何故気が付かなかったのだろう。

「赤ちゃんがここにいたのにどうして気が付かなかったんだろう」

泣きながらお腹を触る私に通子さんは無言で抱きしめてくれる。通子さんの肩も震え出した。

「莉美ちゃん、大丈夫。大丈夫だからね」

どれだけの時間ここで泣いていたのかわからない。
ようやく涙が落ち着いてきたところで通子さんに説明をするが、動揺して声が震えてしまう。
通子さんも目元を拭いながら話を聞いてくれた。
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