離婚記念日
「元気だったか?」
ふと、始まる彼からの話。私は頷いた。
「そうか。良かった。あの時ちゃんと両親の話をしていなくて悪かった。騙したかったわけじゃないんだ。でも結果として何も伝えていなかったからこんな結末になってしまった。本当に悪かった」
彼は膝に手を乗せ、頭を下げていた。
「やめて。もういいから」
「いや、よくないよ。俺のせいで離婚することになったんだ。もし先に伝えていたら、友永が訪ねてきた時に俺に相談できたんじゃないか?」
どうだろう。
そもそも彼が御曹司で、跡を継ぐ立場の人だと知っていたら結婚しなかったかもしれない。
結婚したとしても、やはり立場の違いに苦しんで、私から手を離すことになっていただろう。
だから結果は同じだったのではないか、とあのあと何度考えてもそう思った。
「もういいの。離婚する運命だったんだと思う。太一くん、私のことは忘れて幸せになって」
振り絞るようにやっと伝えた。
幸せになってほしい。でもそれが私と一緒でないのは正直悲しい。
私は太一くんの役に何も立てないから自由にしてあげるしかない。
「莉美!」
「ごめんね、太一くん。勝手に離婚を決めて、驚かせたよね」
かれを見ることができず、足元に視線を落とす。すると太一くんはテーブルを回り込み、私の隣にやってきた。
驚いて顔を上げると、私の膝に置かれた手を握りしめてきた。
「俺はまたやり直したい」
力強い視線に吸い込まれるよう見つめてしまう。出会った時に私を助けてくれた、あの揺るぎない強さを思い出した。
「莉美は離婚を本心からしたかったのか? 周りに言われたからじゃないのか?」
本心でしたかったわけがない。いつまでも一緒にいると誓ったもの。でもブリジャールを率いる彼の隣にはもう立てない。
「ごめんなさい」
強く握られた手を優しく引き抜く。
手の温もりを寂しく感じるが、これは自分で決めたこと。太一くんの幸せだけを考えたい。私がいても彼のプラスにはなれない。
「俺は諦めない。また莉美が俺に落ちてくるまで何度でも伝える。俺は莉美が好きだ。愛してる」
「アイシテル…?」
「あぁ、そうだ。出会った時から何も変わらない。俺は莉美を愛してる」
また掴まれた私の手。
大きな手に包み込まれる。
先ほど離れてしまった温もりがまた戻ってきて胸の奥が熱くなる。
付き合っていた間も、結婚していた1年の間も愛してると言われたことはなかった。
なぜ今言うの?
嬉しいのに悲しい。
私も同じ言葉を返せたらいいのに。
私は自分を奮い立たせるように太一くんに告げた。
「私には何もないの。太一くんと釣り合わない。ごめんなさい」
「莉美は俺のことを嫌いになったと言わないんだな。わかった。やっぱり俺は待ち続けるよ」
久しぶりに見た笑顔に、またグッと胸を掴まれる。
コーヒーを飲み干すと立ち上がった。
「また会いにくるから。何度でも、何回でもここに来る」
「ダメ。忙しいんだから、体を大切にして」
ハハハ……と笑う。
「莉美はいつも俺のことばかりだな。心配しなくていい。俺がしたくてしているんだから」
頭に手を乗せられるとポンポンとし、玄関へ歩いていった。
ふと、始まる彼からの話。私は頷いた。
「そうか。良かった。あの時ちゃんと両親の話をしていなくて悪かった。騙したかったわけじゃないんだ。でも結果として何も伝えていなかったからこんな結末になってしまった。本当に悪かった」
彼は膝に手を乗せ、頭を下げていた。
「やめて。もういいから」
「いや、よくないよ。俺のせいで離婚することになったんだ。もし先に伝えていたら、友永が訪ねてきた時に俺に相談できたんじゃないか?」
どうだろう。
そもそも彼が御曹司で、跡を継ぐ立場の人だと知っていたら結婚しなかったかもしれない。
結婚したとしても、やはり立場の違いに苦しんで、私から手を離すことになっていただろう。
だから結果は同じだったのではないか、とあのあと何度考えてもそう思った。
「もういいの。離婚する運命だったんだと思う。太一くん、私のことは忘れて幸せになって」
振り絞るようにやっと伝えた。
幸せになってほしい。でもそれが私と一緒でないのは正直悲しい。
私は太一くんの役に何も立てないから自由にしてあげるしかない。
「莉美!」
「ごめんね、太一くん。勝手に離婚を決めて、驚かせたよね」
かれを見ることができず、足元に視線を落とす。すると太一くんはテーブルを回り込み、私の隣にやってきた。
驚いて顔を上げると、私の膝に置かれた手を握りしめてきた。
「俺はまたやり直したい」
力強い視線に吸い込まれるよう見つめてしまう。出会った時に私を助けてくれた、あの揺るぎない強さを思い出した。
「莉美は離婚を本心からしたかったのか? 周りに言われたからじゃないのか?」
本心でしたかったわけがない。いつまでも一緒にいると誓ったもの。でもブリジャールを率いる彼の隣にはもう立てない。
「ごめんなさい」
強く握られた手を優しく引き抜く。
手の温もりを寂しく感じるが、これは自分で決めたこと。太一くんの幸せだけを考えたい。私がいても彼のプラスにはなれない。
「俺は諦めない。また莉美が俺に落ちてくるまで何度でも伝える。俺は莉美が好きだ。愛してる」
「アイシテル…?」
「あぁ、そうだ。出会った時から何も変わらない。俺は莉美を愛してる」
また掴まれた私の手。
大きな手に包み込まれる。
先ほど離れてしまった温もりがまた戻ってきて胸の奥が熱くなる。
付き合っていた間も、結婚していた1年の間も愛してると言われたことはなかった。
なぜ今言うの?
嬉しいのに悲しい。
私も同じ言葉を返せたらいいのに。
私は自分を奮い立たせるように太一くんに告げた。
「私には何もないの。太一くんと釣り合わない。ごめんなさい」
「莉美は俺のことを嫌いになったと言わないんだな。わかった。やっぱり俺は待ち続けるよ」
久しぶりに見た笑顔に、またグッと胸を掴まれる。
コーヒーを飲み干すと立ち上がった。
「また会いにくるから。何度でも、何回でもここに来る」
「ダメ。忙しいんだから、体を大切にして」
ハハハ……と笑う。
「莉美はいつも俺のことばかりだな。心配しなくていい。俺がしたくてしているんだから」
頭に手を乗せられるとポンポンとし、玄関へ歩いていった。