離婚記念日
「なんか顔色悪くない?」

週の半ば、水曜に珍しく現れた太一くんはスーツを着ているがネクタイを緩めていた。

「そうか?」

「うん。調子悪いんじゃない?」

顔を覗き込むと気のせいか目が潤み、いつもより顔が赤い。

「大丈夫」

そう言い切る太一くんは、町田さんに出されたアイスティーをぐいっと飲み干した。

「莉美、もう1杯もらえるか?」

「あ、うん」

梅雨の時期になり、蒸し暑いのは間違いない。でも太一くんがこんな飲み方するのは珍しい。やっぱり体調が悪いのでは? と心配になり、思わずおでこに手を伸ばした。
汗をかいているのに、思ったよりも熱くて驚いた。

「太一くん、熱があるじゃない」

「大丈夫だから」

「そんなわけないじゃない。帰って横になったほうがいいよ」

でもここからまた運転して2時間かかると思うと送り出せない。
すると私たちの会話を聞いていた通子さんが話しかけて来た。

「片寄くん、熱があるの?」

「大丈夫です」

彼はすぐに笑ってそう答えるが、明らかにいつもとは違う。

「大丈夫じゃないってば。いつから調子が悪いの?」

気まずそうに私から視線を外す彼を見て、体調不良を確信した。

「ねぇ。いつからなの?」

再度尋ねると、子供のようにそっぽを向きながら「昨日」とだけポツリと言った。

「もう!」

「このまま帰すのも運転が心配よね」

やっぱり通子さんもそう感じてる。
仕方なく、私は彼に声をかけた。

「うちに来る? 一晩泊まっていったら少しは良くなるんじゃないかな」

え?
よそを向いていた彼はパッと振り返った。

「仕方ないでしょ。こんな人帰して、事故でも起こしたら後味悪いもの」

「そうだよな。じゃ、遠慮なく泊まらせてもらうよ」

なんだか嬉しそうな顔をする彼に胸がキュンとしてしまう。

「だったら莉美ちゃんはもう仕事あがっていいわ。早く休ませてあげなさいな」

「すみません」

私でなく、太一くんが頭を下げる。
仕方ない、エプロンを外すとバックヤードに置きにいき、トートバッグを取ってきた。

「町田さん、通子さん。すみません、お先に失礼します」

彼と一緒にお店を後にした。
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