離婚記念日
部屋に戻ると慌ててシーツを綺麗なものに変え、太一くんを横にならせた。
熱を測ると38.7℃。

「どうしてこんなあるのに来たのよ」

「時間の空いた時は莉美に会いたいから」

ボソッと小さな声で言う。
それを聞いて顔が熱くなるのがわかった。
太一くんの気持ちは前に聞いてわかっていたが、こうして時々来てくれるたびに意識させられ、言葉にされると弱い。
私の気持ちが揺らぐ。

「これ風邪薬ね。飲める?」

彼の言葉が聞こえなかったように話を流すと水の入ったコップと薬を手渡した。

「ありがとう」

薬を飲み込むのを確認すると横にならせた。

「ちょっと買い物に行ってくるから寝ていてね」

「すまないな」

ちょっと弱った彼の姿は珍しい。
少し可愛くなり、布団をかけるとポンポンとした。
相当辛かったのかあっという間に寝息が聞こえてきた。

無理しないで欲しいのに……。
でも私のための無理させちゃってるんだよね。
寝ている顔を見ているだけで幸せな気持ちになる。結婚していた頃は当たり前に見ていた寝顔だったが、それがどんなに幸せなことだったのかとつくづく感じる。
出会った頃よりも少し歳を感じ、それがまた彼を精悍な顔つきにさせていた。
頑張ってるね、と小さく声が出た。
この顔つきになるまでに大変な苦労があったのだと感じる。友永さんが私の元に来た時は、本当に驚いた。でも彼を支えるためには非情な話だとしても必要だったのだろう。それだけ彼の背負うものは大きいのだろう。結婚相手に求めるものは会社の安定と彼を支えるだけのバックボーン、包容力だろう。
はぁ、とため息が出てしまう。
もう考えていても仕方ない。私とは終わってるんだから。
立ち上がると、そっとトートバッグを持ち玄関を出た。
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