離婚記念日
「太一くん、この話を聞いても気持ちが変わらないか考えて欲しいの」
涙がこぼれ落ちる中、顔を上げられずにそう告げると、絶対に言わないでおこうと決めていた話をし始めた。これだけは彼に言わずにおこうと思っていた。でも先に進むなら言わないわけにはいかない。
「分かった。でも、俺の気持ちは変わらないと思うよ」
そんなのわからない、と私は首を左右に振った。
「私ね、流産したの……。家を出たあと、体調が悪くて病院にかかったら妊娠していると言われた。でも……赤ちゃんが育っていなかった。私が、私が勝手なことしたから。赤ちゃんがいることに早く気がついてあげられなかったから」
ポタポタと膝に落ちる涙が手で目を抑えても止まることなく流れ落ちる。
「太一くんの赤ちゃんを守れなかったの。ごめんなさい。私が、弱かったばかりに。自分のことばかりだったせいで赤ちゃんがいたのに気が付かなかった。そのせいで赤ちゃんがいなくなっちゃったの。ごめんなさい」
「莉美!」
俯いていた私を包み込むように太一くんに抱きしめられた。
「辛かったな。莉美のせいじゃない。莉美は悪くない。俺が守れなかったんだ」
ぎゅっと力が込められ、彼の匂いが私を包み込む。流れ落ちる涙が抑えきれず、嗚咽が漏れてしまう。その声を隠すように強く抱きしめられた。
「莉美のせいじゃない」
もう一度言ってくれるが、私は腕の中で首を振った。
「私が自分勝手だから、ママにはなれないって赤ちゃんがいなくなっちゃったの」
「違う。そんな訳ない」
嗚咽をあげ、泣きじゃくる私を何度も「莉美のせいじゃない」と言って抱きしめてくれる。暖かい手に体の強張りが取れ、力が抜ける。
「赤ちゃんのことは残念だけど、今はその時じゃなかったんだ。莉美ひとりに負担を負わせてすまなかった。子供ができたのは俺に責任がある。辛い思いをさせて悪かった」
私はまた首を振る。太一くんが悪い訳ない。そう言いたいのに抱きしめられた手は強く、言葉が出てこなかった。
「ごめん、ごめんな」
どれだけ抱きしめられていたのだろう。赤ちゃんを失った辛さを彼が共有してくれるようだった。毎日ふとした時に思い出しては目を潤ませていた。泣いてはダメだと自分をいつも鼓舞していた。そんな気持ちが一気に溢れ出してきた。
ふと気がつくと彼の肩も震えていた。私を抱きしめながら、泣き叫ぶ私の声にかき消されていたが彼も息を殺すように泣いていた。
「た、太一くん……」
「ごめん。1番辛いのは莉美なのに」
私は彼の胸に抱きしめられ、顔を見ることはできない。けれど、彼が悲しんでくれているのを感じ、自然と涙がおさまってきた。私の失ったものを共有し、悲しんでくれる存在がこんなにも大きいのかと心の底から感じた。
涙がこぼれ落ちる中、顔を上げられずにそう告げると、絶対に言わないでおこうと決めていた話をし始めた。これだけは彼に言わずにおこうと思っていた。でも先に進むなら言わないわけにはいかない。
「分かった。でも、俺の気持ちは変わらないと思うよ」
そんなのわからない、と私は首を左右に振った。
「私ね、流産したの……。家を出たあと、体調が悪くて病院にかかったら妊娠していると言われた。でも……赤ちゃんが育っていなかった。私が、私が勝手なことしたから。赤ちゃんがいることに早く気がついてあげられなかったから」
ポタポタと膝に落ちる涙が手で目を抑えても止まることなく流れ落ちる。
「太一くんの赤ちゃんを守れなかったの。ごめんなさい。私が、弱かったばかりに。自分のことばかりだったせいで赤ちゃんがいたのに気が付かなかった。そのせいで赤ちゃんがいなくなっちゃったの。ごめんなさい」
「莉美!」
俯いていた私を包み込むように太一くんに抱きしめられた。
「辛かったな。莉美のせいじゃない。莉美は悪くない。俺が守れなかったんだ」
ぎゅっと力が込められ、彼の匂いが私を包み込む。流れ落ちる涙が抑えきれず、嗚咽が漏れてしまう。その声を隠すように強く抱きしめられた。
「莉美のせいじゃない」
もう一度言ってくれるが、私は腕の中で首を振った。
「私が自分勝手だから、ママにはなれないって赤ちゃんがいなくなっちゃったの」
「違う。そんな訳ない」
嗚咽をあげ、泣きじゃくる私を何度も「莉美のせいじゃない」と言って抱きしめてくれる。暖かい手に体の強張りが取れ、力が抜ける。
「赤ちゃんのことは残念だけど、今はその時じゃなかったんだ。莉美ひとりに負担を負わせてすまなかった。子供ができたのは俺に責任がある。辛い思いをさせて悪かった」
私はまた首を振る。太一くんが悪い訳ない。そう言いたいのに抱きしめられた手は強く、言葉が出てこなかった。
「ごめん、ごめんな」
どれだけ抱きしめられていたのだろう。赤ちゃんを失った辛さを彼が共有してくれるようだった。毎日ふとした時に思い出しては目を潤ませていた。泣いてはダメだと自分をいつも鼓舞していた。そんな気持ちが一気に溢れ出してきた。
ふと気がつくと彼の肩も震えていた。私を抱きしめながら、泣き叫ぶ私の声にかき消されていたが彼も息を殺すように泣いていた。
「た、太一くん……」
「ごめん。1番辛いのは莉美なのに」
私は彼の胸に抱きしめられ、顔を見ることはできない。けれど、彼が悲しんでくれているのを感じ、自然と涙がおさまってきた。私の失ったものを共有し、悲しんでくれる存在がこんなにも大きいのかと心の底から感じた。