離婚記念日
夏になり、練習の後みんなで花火に行った。
屋台で買い込み、みんなで河原で眺めている。すでに成人になっている人たちはビール片手に盛り上がっていた。先輩もみんなと一緒に飲んでいて楽しそう。
福田先輩も飲んでいるが、麻美の隣はキープしたまま。付き合っていないと麻美は言うけど、時間の問題だろう。高校の頃から見てきた麻美はここにきてグッと綺麗になった。恋する女は綺麗って言うけど、本当なんだと思った。お互い両思いなんだろうなって分かるだけに、今の状況はもどかしい。付き合ったことがない私にはわからないけど、そこがまたいいのかもしれない。

「莉美ちゃん、このいちご飴美味しいよ」

同じ1年の光峰(みつみね)くんが話しかけてきた。同じ教育学部で授業も重なるので自然と仲が良くなった。

「光峰くんも早く飲めると良いね」

「あ、そうだな。でも多分あんまり飲めないと思う。両親も飲めないしさ」

頭をかきながら笑っていた。

「でもその分甘いものも辛いものもなんでも食べるから良いんじゃない?」

彼はプロップというスクラムを組むポジションのためかなり体が大きい。背も高いが筋肉質なのが服の上からでも分かるくらい鍛えていた。前に私が腕にぶら下がると持ち上げてきた時には驚いた。でもその大きな体とは反対にとても優しく、あんなに強くぶつかり合うような人とは別人ようだ。
光峰くんと食べ物の話をしながら花火を見上げていると、片寄先輩が近くに来た。

「ふたりとも食べてるか?」

「はい。先輩楽しそうですね」

ビール片手に陽気な先輩はあまり見ないので新鮮だ。

「花火もこうしてみんなで見ると楽しいな」

「そうですね! みんなと来れてよかったです。サークルに誘っていただいて感謝です」

「いや、本当に俺こそ莉美ちゃんと知り合えて感謝してるよ」

先輩のストレートな言葉にドキッとしてしまった。
花火が終わると帰る人で道はごった返していた。たくさんの人に揉まれ、みんなとはぐれてしまった。私は片寄先輩が近くにいてくれ、周りの人から守るように肩を抱かれていた。人ごみも喧騒も気にならない。今気になるのは先輩との距離だ。
汗の匂いとアルコールの匂い。本当なら嫌な匂いのはずなのに彼にはそんな気持ちにならない。
むしろ抱かれた肩が気になって仕方なかった。
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