離婚記念日
未来へ歩き出す
翌日、私は太一くんに仕事場まで送ってもらった。甘い夜を過ごしてしまい、いつもより少し起きるのが遅くなってしまった。でも今まで何かが欠けたままだったものが埋められるように満たされた気持ちだった。
「おはようございます」
太一くんが町田さん夫婦に声をかけるとにこやかに笑っていた。
「おはよう。体調がずいぶん良さそうだな」
「おかげさまで体調だけでなく、関係修復もできました」
笑いながら太一くんが伝えるとふたりとも喜んでくれた。
「良かったわね、莉美ちゃん。心配してたのよ。それに、離婚した後もこんなに通い詰めてくれるなんてよほど思われてるんだなって思ってたのよ」
ふたりの生温かい視線に、なんでもお見通しなんだと思うと恥ずかしくなってしまった。
「今日休んでも良かったのに」
「いえ、日曜日は混みますからね。働かせてください」
「うちは助かるけど……片寄くんは良いのか?」
「えぇ。もちろんです。私にも手伝わせてください。これでも昔は子供食堂で手伝ったりしてたし、洗い物くらいならできます」
え? と振り返ると彼はにこやかに笑っていた。
町田さんたちも笑っていて、「なら手伝ってもらおうかしら」なんて言ってくれた。
太一くんと同じ職場で働くなんて大学生以来。旦那さんのエプロンを借りた太一くんを懐かしく思った。こうして気さくになんでもやってくれる彼を好きになったんだとまた思い出した。
太一くんと一緒に働き、とても充実した一日だった。帰りに太一くんと近くのお店で買い物をし、ふたりで料理を作り夕飯を食べた。結婚していた頃を思い出した。
「またこうして一緒に料理して、食べる日が来るなんて夢みたいだ」
たった今、私が思ったことを彼が口にしたので思わず私も笑ってしまった。
「今日も泊まっていい?」
「だーめ。明日は仕事でしょ? ここから遠いんだから今日のうちに帰らないとまた体調崩しちゃうよ」
一緒にいたいに決まってる。でも大人になると学生の頃のようにはいかない。翌日の仕事を考えるようになってしまった。ましてや、彼は会社でなくてはならない存在。ただでさえ最近隙間を縫って伊豆まで来ていたから疲れも溜まり倒れたのだろう。また無理をさせて倒れさせるわけにはいかない。
「また休みの日に会おう。でも私の休みって火曜と水曜なんだよね」
「じゃ、莉美さえ良ければ火曜と水曜はうちに来てよ。で、週末は俺がこっちに来る」
「うん!」
すると彼はカバンを取り、サイドポケットに入っていた物を取り出した。その小さな物を私の手に乗せる。
「あ、これ」
「あぁ。ずっと持ち歩いていた。莉美に返せるように」
2人お揃いで買ったキーホルダーがついたままの鍵だった。
「やっと持ち主に渡せたよ」
「ありがとう」
ぎゅっと手の中に握りしめた。まさか私の手の中に戻ってくるとは想像もしていなかったのに。
彼はその手を包み込むと、よかった、と小さく呟いた。
また火曜に会う約束をして、彼は東京へと戻って行った。
「おはようございます」
太一くんが町田さん夫婦に声をかけるとにこやかに笑っていた。
「おはよう。体調がずいぶん良さそうだな」
「おかげさまで体調だけでなく、関係修復もできました」
笑いながら太一くんが伝えるとふたりとも喜んでくれた。
「良かったわね、莉美ちゃん。心配してたのよ。それに、離婚した後もこんなに通い詰めてくれるなんてよほど思われてるんだなって思ってたのよ」
ふたりの生温かい視線に、なんでもお見通しなんだと思うと恥ずかしくなってしまった。
「今日休んでも良かったのに」
「いえ、日曜日は混みますからね。働かせてください」
「うちは助かるけど……片寄くんは良いのか?」
「えぇ。もちろんです。私にも手伝わせてください。これでも昔は子供食堂で手伝ったりしてたし、洗い物くらいならできます」
え? と振り返ると彼はにこやかに笑っていた。
町田さんたちも笑っていて、「なら手伝ってもらおうかしら」なんて言ってくれた。
太一くんと同じ職場で働くなんて大学生以来。旦那さんのエプロンを借りた太一くんを懐かしく思った。こうして気さくになんでもやってくれる彼を好きになったんだとまた思い出した。
太一くんと一緒に働き、とても充実した一日だった。帰りに太一くんと近くのお店で買い物をし、ふたりで料理を作り夕飯を食べた。結婚していた頃を思い出した。
「またこうして一緒に料理して、食べる日が来るなんて夢みたいだ」
たった今、私が思ったことを彼が口にしたので思わず私も笑ってしまった。
「今日も泊まっていい?」
「だーめ。明日は仕事でしょ? ここから遠いんだから今日のうちに帰らないとまた体調崩しちゃうよ」
一緒にいたいに決まってる。でも大人になると学生の頃のようにはいかない。翌日の仕事を考えるようになってしまった。ましてや、彼は会社でなくてはならない存在。ただでさえ最近隙間を縫って伊豆まで来ていたから疲れも溜まり倒れたのだろう。また無理をさせて倒れさせるわけにはいかない。
「また休みの日に会おう。でも私の休みって火曜と水曜なんだよね」
「じゃ、莉美さえ良ければ火曜と水曜はうちに来てよ。で、週末は俺がこっちに来る」
「うん!」
すると彼はカバンを取り、サイドポケットに入っていた物を取り出した。その小さな物を私の手に乗せる。
「あ、これ」
「あぁ。ずっと持ち歩いていた。莉美に返せるように」
2人お揃いで買ったキーホルダーがついたままの鍵だった。
「やっと持ち主に渡せたよ」
「ありがとう」
ぎゅっと手の中に握りしめた。まさか私の手の中に戻ってくるとは想像もしていなかったのに。
彼はその手を包み込むと、よかった、と小さく呟いた。
また火曜に会う約束をして、彼は東京へと戻って行った。