離婚記念日
「莉美、あのさ。来週の土曜日って休めないか?」
どことなく言い出しにくそうな物言いに、何だろうと不思議に思った。
「道子さんに相談すれば休めはとは思うけど、どうして?」
「あのさ、両親に会ってもらいたいんだ」
言いにくそうな表情を浮かべる彼の顔は、明らかに私の様子を窺っている。
そもそも離婚したのは彼のご両親のせい。もし彼らが政略結婚の必要があると私を諭さなければあのまま結婚生活が続いていたはず。
恨んでいないと言えば嘘になるかもしれない。
でもそれよりも今の関係を崩されるのではないかと不安になってしまう。
「大丈夫だ。ふたりとも反省してる。もちろん俺たちのことを認めた上で、莉美に許してほしいって言ってるんだ」
「え?」
「自分勝手だったと重々承知してる。自分たちの勝手で俺たちを振り回したって反省してる。このまま俺としては莉美に会わせたくないと思っていた。でもやっぱりここを通らないと俺たち先に進めないと思ったんだ」
ご両親が私たちを認めてくれるの?
「ふたりにとっての結婚はみんなにとって良いものなんだ」
「どういうこと?」
「ふたりは政略結婚だったんだけど、お互いの会社に利益をもたらした。それだけでなく相思相愛になれたから政略結婚がいいものだと思い込んでるんだ。家族も会社にも利益になり、自分たちも幸せを手に入れられるのは効率的だし悪いところなんてないと思ってる」
諦め顔の彼はため息混じりに両親の話を教えてくれる。
「たまたま相性が良かっただけなんだよ。それなのにこんなにいい出会いはないとばかりに見合いを勧められてきたんだ。俺には俺の人生があると何度も伝えてきた」
「だったら……」
「でもようやく俺の気持ちを理解してくれた。俺と莉美との間に子供が出来、この子を認められないのなら会社なんてどうでもいいって思った。自分が幸せになれないのに会社の利益をもとめなければならないのか。だったら自分の幸せのために両親とは決別すると伝えたんだ」
確かにご両親にとって会社の利益になった上に、幸せな家庭まで手に入ったのだから、これ以上の話はないだろう。でも太一くんの言うようにたまたま相性が良かったのだと思う。愛情もないのに良好な関係が永遠に続くとは思えない。でもうまくいったご両親にとってはこれが全てだ。私たちの愛情こそ、いつかは冷めると思われているのかもしれない。だったら利益のある方を、と考えるのも会社を率いている人にとっては大事な考え方なのだろう。根本的な考え方が違うから、どちらが間違っているわけでもない。それなのに彼をご両親から引き離すわけにはいかない。
「それはダメだよ。太一くんのご両親の考えだってわかるの。会社の安定や繁栄には政略結婚がいいと思われる考えた方も間違ってないよね」
「あぁ。でも俺は嫌だ」
「でもね……」
太一くんが笑っていた。
「やっぱり莉美は莉美だな。親は俺の考えを聞いて驚いていたよ。あんなに何度も俺の気持ちを伝えてきたのに本気で理解しようとしていなかったんだろうな。俺が決別を宣言したら慌ててたよ」
それはそうだろう。彼に妹さんがいると聞いているけれど、ご両親は太一くんに継いで欲しいのだろう。
「俺の言葉にようやく耳を傾けてくれた。それに子供が出来た話をしたら飛び上がるほど驚いていたよ。もちろん喜んでいた」
「喜んでくれているの?」
「あぁ。それは物凄くな。ただ、今までのことを考えると莉美に合わせる顔がないって言ってた。無理やり引き離すような真似をして申し訳なかったと言っていた」
まさか……。
友永さんという秘書を使って私を引き離し、離婚までさせられた。それほどまでにこだわっていた結婚だったはずなのに。
「自分たちの考える幸せが全てじゃないってようやく分かってくれたんだ。本当は今更なんなんだよ、と思うけどここから始めないとこの子のために家族になれないだろう?」
家族に……またなれる?
このまま行けば籍は入れずに私の子供として生まれ、彼に認知してもらう形を取る覚悟はしていた。もし彼が辞めたくなればこの関係は終わる不安定なもの。それでも今一緒にいられることが嬉しかった。
認められ、籍を入れられるなんて思ってもみなかった。
「待たせて悪かったな。みんなで新しい関係を築こう。一歩踏み出そう」
「うん」
どことなく言い出しにくそうな物言いに、何だろうと不思議に思った。
「道子さんに相談すれば休めはとは思うけど、どうして?」
「あのさ、両親に会ってもらいたいんだ」
言いにくそうな表情を浮かべる彼の顔は、明らかに私の様子を窺っている。
そもそも離婚したのは彼のご両親のせい。もし彼らが政略結婚の必要があると私を諭さなければあのまま結婚生活が続いていたはず。
恨んでいないと言えば嘘になるかもしれない。
でもそれよりも今の関係を崩されるのではないかと不安になってしまう。
「大丈夫だ。ふたりとも反省してる。もちろん俺たちのことを認めた上で、莉美に許してほしいって言ってるんだ」
「え?」
「自分勝手だったと重々承知してる。自分たちの勝手で俺たちを振り回したって反省してる。このまま俺としては莉美に会わせたくないと思っていた。でもやっぱりここを通らないと俺たち先に進めないと思ったんだ」
ご両親が私たちを認めてくれるの?
「ふたりにとっての結婚はみんなにとって良いものなんだ」
「どういうこと?」
「ふたりは政略結婚だったんだけど、お互いの会社に利益をもたらした。それだけでなく相思相愛になれたから政略結婚がいいものだと思い込んでるんだ。家族も会社にも利益になり、自分たちも幸せを手に入れられるのは効率的だし悪いところなんてないと思ってる」
諦め顔の彼はため息混じりに両親の話を教えてくれる。
「たまたま相性が良かっただけなんだよ。それなのにこんなにいい出会いはないとばかりに見合いを勧められてきたんだ。俺には俺の人生があると何度も伝えてきた」
「だったら……」
「でもようやく俺の気持ちを理解してくれた。俺と莉美との間に子供が出来、この子を認められないのなら会社なんてどうでもいいって思った。自分が幸せになれないのに会社の利益をもとめなければならないのか。だったら自分の幸せのために両親とは決別すると伝えたんだ」
確かにご両親にとって会社の利益になった上に、幸せな家庭まで手に入ったのだから、これ以上の話はないだろう。でも太一くんの言うようにたまたま相性が良かったのだと思う。愛情もないのに良好な関係が永遠に続くとは思えない。でもうまくいったご両親にとってはこれが全てだ。私たちの愛情こそ、いつかは冷めると思われているのかもしれない。だったら利益のある方を、と考えるのも会社を率いている人にとっては大事な考え方なのだろう。根本的な考え方が違うから、どちらが間違っているわけでもない。それなのに彼をご両親から引き離すわけにはいかない。
「それはダメだよ。太一くんのご両親の考えだってわかるの。会社の安定や繁栄には政略結婚がいいと思われる考えた方も間違ってないよね」
「あぁ。でも俺は嫌だ」
「でもね……」
太一くんが笑っていた。
「やっぱり莉美は莉美だな。親は俺の考えを聞いて驚いていたよ。あんなに何度も俺の気持ちを伝えてきたのに本気で理解しようとしていなかったんだろうな。俺が決別を宣言したら慌ててたよ」
それはそうだろう。彼に妹さんがいると聞いているけれど、ご両親は太一くんに継いで欲しいのだろう。
「俺の言葉にようやく耳を傾けてくれた。それに子供が出来た話をしたら飛び上がるほど驚いていたよ。もちろん喜んでいた」
「喜んでくれているの?」
「あぁ。それは物凄くな。ただ、今までのことを考えると莉美に合わせる顔がないって言ってた。無理やり引き離すような真似をして申し訳なかったと言っていた」
まさか……。
友永さんという秘書を使って私を引き離し、離婚までさせられた。それほどまでにこだわっていた結婚だったはずなのに。
「自分たちの考える幸せが全てじゃないってようやく分かってくれたんだ。本当は今更なんなんだよ、と思うけどここから始めないとこの子のために家族になれないだろう?」
家族に……またなれる?
このまま行けば籍は入れずに私の子供として生まれ、彼に認知してもらう形を取る覚悟はしていた。もし彼が辞めたくなればこの関係は終わる不安定なもの。それでも今一緒にいられることが嬉しかった。
認められ、籍を入れられるなんて思ってもみなかった。
「待たせて悪かったな。みんなで新しい関係を築こう。一歩踏み出そう」
「うん」