離婚記念日
子ども食堂で見かける優しい姿、ラグビーをしている時の精悍な姿どちらも私の目は釘付けになっていた。
先輩は誰に対しても気さくに話しかけていくので同級生にも後輩にも4年の先輩たちにも一目置かれる存在に見えた。彼の人としての大きさのようなものが違うのだと思った。

夏が終わる頃、麻美はとうとう福田先輩と付き合い始めた。福田先輩が麻美に告白したと嬉しそうに話しているのは側から見ても嬉しい。けれど練習の後や飲み会の後もふたりで帰るので私は必然的にひとりになってしまった。麻美は気にしてくれたが、光峰くんを始めとした同級生や片寄先輩がいつもそばにいてくれたので寂しくはなかった。
福田先輩も麻美との時間を少しでも作ろうと子ども食堂の手伝いに来るようになった。ふとした瞬間目が合うだけで笑い合うふたりを見てこちらがくすぐったい気持ちになる。幸せそうだなぁとちょっと羨ましい。
福田先輩が来るようになり、帰りは麻美と帰ってしまう。ふたりは私を気にかけてくれるが、お邪魔はできない。いつも何かしらの理由をつけ別々になるようにしていた。
片寄先輩がいる時には自然と私を駅まで送ってくれるのが常になっていった。

「なぁ、今日このあと暇? もしよかったら映画に行かないか?」

「え?」

珍しく片寄先輩がそんなことを言う。
私? と思わず後ろを振り向きそうになってしまうくらい驚いた。
先輩は私の返事を無言で待っていて、緊張感が走る。

「あ、はい。予定はないです」

「そうか。じゃ、行こうか」

そう言うと駅に向かっていった。
いつもより少しお互いに口数が少ない。お互いに緊張しているのかわかる。
映画館に着くと公開初日とあって賑わっていたが時間的に比較的空きが出ていて、無事に席を確保できた。
定番のポップコーンとドリンクを買い、席を探す。
始まるまでの少しの時間、ふたりでひとつのポップコーンをいつどのタイミングで手を伸ばしたら良いのか悩む。手が触れてしまったら、と思うとドキドキしてなかなかとれなかった。
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