離婚記念日
先輩、と呼ぶのはやめてほしいと言われ、私は「太一くん」と呼ぶようになった。彼からはこの日を境に「莉美」と呼び捨てになった。
なんだか恥ずかしくて、彼の名前を呼べない私は「ねぇねぇ」と何とか名前を呼ばずに済ませようとしてしまう。それを知ってか、わざと気が付かないふりをして私に名前を呼ばせようとするちょっと意地悪なところがあるって気がついた。
今まで優しくて、思いやりがあって、包容力もあって……その上見た目まで完璧、と思っていた彼にちょっと意地悪な面があったり、拗ねるところがあったり、と知らなかった面を見るたびにどんどん惹かれていった。
初めてのクリスマスは一緒にイルミネーションを見に行き、帰りに初めてのキスをした。
11月に付き合い始めて、手を繋いだりしていたがそれ以上のことはなかった。なので初めて唇を重ねた時、どうしたら良いのかわからず固まってしまった。
太一くんは私を包み込むように抱きしめてくれ「莉美の唇は甘い」と耳元で囁かれ、恥ずかしくなり彼のセーターを掴んだ。

「莉美。大好きだよ」

「私も太一くんが好き」

彼に体をうずめながら伝えると、彼に顎を持ち上げられまたキスをされた。2回目のキスは少しだけ長かった。
彼からのクリスマスプレゼントは雪の結晶と一粒のパールがついたネックレスだった。
私は彼がこの前無くして困っていたのを知っていたので新しいコインケースを贈った。

お正月は一緒に初詣に行き、バレンタインは手作りのチョコレートを渡した。ホワイトデーにはお返しに水族館に連れて行って貰い楽しくて仕方がなかった。
ラグビーのあとも、子ども食堂のあとも一緒に帰り、手を繋いで歩くのが普通で何の違和感も感じなくなっていた。時々されるキスも初めての時よりは固くならなくなったと思う。
太一くんは春になると4年生。
本格的に就活が始まるのでサークルはそろそろ終わりになる。
今までより会える時間が減ってしまうのだと思うと寂しくなってしまう。

「莉美、夏になったら1泊で旅行に行かないか?」

「うん!」

ふたりで出かけられる約束だと思うと嬉しくて二つ返事で頷いた。

「泊まりだよ?」

分かってるのか? と確認されるような様子に私はハッとした。
泊まり……と言うのはそういうこと、なんだよね。
気がついた時には顔が火照ってくるのを感じた。でも一緒にいたい気持ちが強かった。
小さく頷くと太一くんに引き寄せられ、抱きしめられた。

「旅行を楽しみに就活頑張るよ」

「うん。頑張って」

私も彼の背に手を回すとギュッと抱きしめた。
< 9 / 66 >

この作品をシェア

pagetop