恋と呼べなくても
1
日向直にとって、放課後の教室ほど安らぎと孤独を感じる場所はない。できることな残りたくはないが、他に行くあてがあるわけでもなく。窓の外を走る陸上部員——。もうすぐ大会だ。彼らのように心血注ぐものがあればよかったのに。気がつけばもう高校三年生。打ち込むべきことといえば受験勉強くらいか。しかし進路すら決まっていないのに、目標もない状態で何をどう頑張ればいいのか。
はぁ……と、直はため息をついた。すかさず友人三人の視線がとんできた。
「あ、ため息なんかついちゃって。運が逃げてくよ」と美結に指摘される。
「わかった。陸部の青木くん見てたんでしょー。彼氏いるくせに、この浮気者ー!」と真希が校庭に目をむけた。
「陸部のエースで成績もトップ。おまけに眉目秀麗って完璧すぎない? あぁ、なんていうか。罪だわ」といって、優香は机に座った。
「あれ、そんなセリフ今朝みた」
そういって美結は、スマートフォンの画面を皆に見せる。
< 1 / 265 >