悲劇のフランス人形は屈しない
トレーの上に水やスプーンを用意しながら、先ほどの会話を思い出す。
(確か、その誕生日会に天城は行かなかった。いや、るーちゃんは彼を誘うことすら出来なかったんだっけ)
湯気の立つカレーを受けとり、空いている窓際の席へと向かった。
(なんか、るーちゃんは酷い目にあった気がするんだけど、思い出せない!)
この誕生日会で何かが起きた気がするのに。
(くーっ。私の記憶力頑張れ!)
「白石さ~ん」
どこからか藤堂の声がした。
わざと聞こえないふりをして、3人掛けの丸テーブルに座った。
(要は関わらなければ、問題ない)
黙々とカレーを食べていると、目の前がふっと暗くなり、藤堂の甘い声が上から振ってきた。
「もう、白石さんたら。さっき呼んだのに~」
顔を上げ、藤堂の顔を見上げる。
「ごめんなさい、聞こえなかったわ」
「いいわ、許してあげる」
それから取り巻き二人も呼び寄せ、自分は私の隣に座った。
(回避は無理か・・・)
座る席が足りないので、女子生徒二人は藤堂の隣に立っている。
「ねえ、白石さん」
テーブルに肘をつき、藤堂は私の顔をのぞき込んだ。大きい瞳でキラキラした視線を送ってくる。
「来週の土曜日、私の誕生日パーティーがあるのだけど」
「ええ、存じてますわ」
カレーに視線を落としたまま、私は答えた。
先ほど見た「ストーリー」のまま、話は進んでいくのだろうか。
―このまま、何もしなければ。
「白石さんに、お願いがありますの」
そこで私は顔を上げた。
「ごめんなさい。来週の土曜日は、急用が入ってしまって、参加出来なくなってしまったの」
「・・・え?」
茜の顔が明らかに固まった。
「招待状も頂いたのに、申し訳ないわ。ぜひ素敵なパーティーを」
私はすっと立ち上がり、呆然としている生徒3人をその場に残して足早に食堂を出て行った。
(よし、これで悪い予感しかしない誕生日会は回避できた)
今日何度目か分からないガッツポーズを心の中で作った。
しかし、この時の私は考えが甘かったと後で知らされる。
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