悲劇のフランス人形は屈しない
「おお!可愛い服が沢山ある!」

デパートに入ってしまうと、私の葛藤など一気に吹っ飛んでしまった。
「これ可愛い!まどか、おいで!」
素直に従うまどかは、訝しげな顔をしている。
「私の服を買いに来たのではなく、プレゼントを買いに来たのではないですか?」
「ふふ。プレゼントなんてついでよ」
それからお店のお姉さんに声をかける。
「すみません。こちらのサイズ、まだ他にありますか?」
笑顔が素敵な店員は、はいと頷いた。
「妹さんですか?」
まどかのサイズを探しながら女性は聞いた。
「ええ」
「可愛らしいですね」
「ええ、本当に。自慢の妹です」
「こちらのサイズはいかがですか?」
私は水色に白襟が爽やかなワンピースを受け取り、まどかに合わせる。
「サイズ、良さそうですね。まどか、着てみる?」
断られるかと思ったが、意外にも妹は素直に頷いた。
「こちらのサイズ、最後の一点でして」
まどかが試着している最中に、手に持っている機械で在庫を確認しながら店員が言った。
「似合っていたら、すぐ買いますね」
そんなことを話している内に、妹が少しきまずそうな顔で試着室から出てきた。
「お似合いですね!」
店員が嬉しそうに言った。
「ほんと、可愛い」
思わず抱きしめたくなる。
「これ、買います」
店員に向き直り、私はスパッとブラックカードを取り出した。
「お買い上げありがとうございます。こちらの商品、お姉さんのサイズもあるのですが、お揃いでいかがですか?」
ぴくりと耳が動いたが、私はいやいやと首を振った。
「た、大変捨てがたい提案ですが。私が着ても似合うか」
「・・・お姉さまは、似合うと思う」
まどかがぽそっと小声でそう言った瞬間、即断即決した。
「そちらも買います」
ワンピース1枚32万円なんて知ったこっちゃない。
そのワンピース2着?買って良し!

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