悲劇のフランス人形は屈しない
「まどか、恥ずかしい?」
隣で沈黙している妹の顔をのぞき込んだ。
「…少し」
今私たちは先ほど買い上げたお揃いのワンピースを着て歩いていた。
アイスクリーム片手に、手を繋いで歩いているため、通りすがる人たちに「可愛らしい姉妹ね~」と声をかけられる。
(可愛い妹とお揃いコーデなんて、今なら誰に平手打ちされても許せそう!)
心の中で叫んでいると、半歩下がって付いてきていた平松が言った。
「お嬢様、そろそろお誕生日プレゼントの方を」
「あ、そうだった。完全に忘れたわ。何がいいかしら」
思わず、立ち止まる。
有名なブランド店がいくつも立ち並んでいるが、どれか正解か分からない。
そもそもお金持ちのお嬢様が欲しがるものなんて、微塵も思いつかない。お金があるのだから、わざわざ買ってあげなくても既に持っていそうだ。
(漫画に描いてあったっけ…?)
頼りない記憶を手繰り寄せようと努力するが、藤堂へのプレゼントなんて全く思い出せない。
「お姉さま。藤堂さまは、限定品に弱いと聞いたことがあります」
まどかが私を見上げた。
「限定品?」
「バッグとかどうでしょう」
妹が私の手を引き、ある店へと足を進める。
「いらっしゃいませ。あら、白石のお嬢様。今日はお姉さまとお買い物ですか?」
先ほどの子供服の店員より、二回りほど年齢を重ねた上品な女性が近づいてきた。デパートの制服の胸元には、原田と書かれたネームプレートが光っている。
店員がまどかの顔を知っていることに驚いていると、こっそりと妹が私に耳打ちした。
「お母さまがこのお店のお得意様で、よく来ているのです」
(なるほど)
すぐさま理解した。母親は、透を誘うことなく妹だけを連れて来ているということを。
「何かお探しものがありますか?」
美しい営業スマイルで原田が聞いた。
「ええ。何か限定品はないかと」
私も負けじと上品に笑って返す。
それならば、と原田は嬉しそうに私を先導した。
「こちらの商品、この春限定のバッグです」
(え、ちっさ・・・)
心の中で思わず突っ込んでしまった。
春仕様の薄桃色の手の平サイズのバッグ。金色のロゴのキーホルダーが高級ブランドを主張するかのように輝いている。バッグの内側は、スカーフのようなカラフルな柄だった。一見シンプルだが、中を見ると落ち着いた派手さも兼ね備えている。
「当店人気商品となっております。この色は残り一点になります」
(これ何が入るの?ハンコ?)
人気の理由を理解出来ないでいると、隣で妹が言った。
「数はどれくらい出ていますか?姉のお友達の誕生日プレゼントにと思っていますが、既に多くの人が買っていたらと思うと」
「まどか・・・」
(な、なんて出来た妹なの・・・!私なんてバッグの小ささに気を取られていたのに!)
原田は横に振り、笑顔を絶やさず言った。
「当店でこの商品は三点しか扱っておりません。二点を購入されたのは、別の店舗で売り切れた為に、お取り寄せを希望されたお客様です。この地域の方ではありません」
「では、それを頂きますわ」
私はそう言いながら、心の中で盛大に妹に感謝した。
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