悲劇のフランス人形は屈しない
家に帰宅すると、途端に疲れが襲ってきた。
買ってきたプレゼントをテーブルに置き、リビングにある10人掛けの革のソファーに倒れ込んだ。
「ああー疲れた。お買い物って疲れる」
だけど、正直言うと、今までの人生で一番楽しい買い物だった。
ごろりと寝返りをうち、天井を見上げる。
(服を買うのが楽しかったのは、初めてかもしれない)
そして、ワンピースを着たのも。
「るーちゃんになれて良かった・・・」
今回、妹とお揃いの可愛い服を着られたのは、白石透の外見のおかげだ。
(何着ても似合うるーちゃん。ありがとう!)
私はそのまま瞼を閉じると、いつの間にか眠りについてた。

「お姉さま」
声をかけられ、私ははっと目を覚ました。
「大丈夫ですか?」
妹が心配そうな顔で顔をのぞき込んでいる。
「あれ、おかえり。早かったね」
目をこすりながら、起き上がる。
「もう7時です。お夕飯は食べました?」
「え、もう7時?」
なんと、6時間近くも寝ていた。
「お夕飯がまだでしたら、一緒に出前取りますか?」
妹は手慣れた手つきで、冷蔵庫横にしまってある出前のチラシを取り出すと、テーブルの上に広げた。
「私はフレンチにしますが、お姉様は?」
「ん~。じゃあ、私はピザで」
私が何枚もある出前用のチラシを見ながらそう言うと、妹は目を丸くした。
「ぴ、ピザですか?」
「うん。好き?一人じゃ多いから一緒に分けようね」
ソファー近くに置いてある固定電話に手を伸ばし、自分にはピザとチキン、妹用にハンバーグセットを注文した。
「荷物置いてきます」
妹は丁寧にそう言うと二階へ上がって行く。
「私も行く~」
その後ろを追いかけ、自分もふわもこの部屋着に着替えた。

夜8時過ぎ。
お待ちかねの出前が到着し、二人で夕飯となった。
部屋の中は二人きりのせいかしんとしているが、全く気にならなかった。
「どう、美味しい?」
目の前で上品にハンバーグを食べているまどかに聞いた。
「普通です」
可もなく不可もなくといったところか。
「お姉さまは、その・・・ピザ美味しいですか?」
「食べる?」
先ほどから私が食べているところを見ているのには気づいていた。
しかし妹は私が差し出したピザを見つめるだけで、受け取ろうとしない。
「もしかして、お母さんに反対されてる?」
妹は戸惑いがちに頷いた。
「パスタはいいけど、ピザはだめだと…」
「なんで?」
「ジャンクフードを食べたら、頭が悪くなるって」
(なんじゃ、そりゃ)
「確かにジャンクフードは毎日食べていたら体壊すかもしれないけど、たま~にだったら大丈夫」
「うん・・・」
ぎこちなくピザに手を伸ばし、口に運ぶ妹。
「どう?」
「美味しい・・・」
「でしょ」
思わず笑いが漏れてしまう。
「こうやって時々、お母さまには秘密にして食べようね」
誰もいないのに、私は小声で言うと妹は嬉しそうに頷いた。
(それにしても…)
冷蔵庫横の出前のチラシの束を見つめた。
(ジャンクフード云々言う前に、ちゃんと食の面倒を見なさいよ・・・。小学生に一人で出前を取らせる親ってどうなの)
「明日も、出前?」
私が言うと妹が「はい」と答えた。
「土日はお手伝いさんがお休みなので…」
「明日は、私がご飯作ってあげるわ」
「お姉さまが・・・?」
妹の表情にはピザの嬉しさは一切消え、疑いのまなざしだけが残っていた。

あれ、るーちゃんって料理も出来なかったっけ・・・?
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