悲劇のフランス人形は屈しない
「あの・・・これは?」
高級ドレスが並ぶ店内で、肩身狭そうに伊坂が言った。
「ドレスをいくつか見立てて頂きたいの」
女性の店員にそう声をかけると、すぐさま様々なドレスが揃った。
「ごめんなさいね、伊坂さん。試着をお願い出来るかしら?」
「え、ええ?」
未だに状況が把握できていない、伊坂を試着室へと案内する。
二回、三回と何度か試着を行い、伊坂に似合っているドレスが見つかった。
オフショルダーの濃い青のドレス。ウエストの部分にはアクセントに白いリボンが付いている。
「似合っているわ。どうかしら?」
「うん、凄く素敵・・・」
「では、これを下さい」
私は店員に向かって言った。
驚いて口をパクパクさせている伊坂を背後に感じながらも、言葉を続ける。
「それから、このドレスに合う靴とバッグもお願いします」
「し、白石さん…?」
「かしこまりました」
そして物の見事に、パーティー用の買い物が終了した。
店を後にした時には、伊坂は大量の紙袋を両手に抱えている。
「平松に持ってもらえばよろしいのに」
後ろから静かについて来る平松をちらりと見ながら、私は言った。
「いいえ!」
伊坂は首を振った。大事そうに袋を抱え、申し訳なさそうに言った。
「でも、こんなにいいの?かなり高価なんでしょ?」
「私の方こそ、ごめんなさいね。明日のパーティー、私のせいで参加する羽目になって。だから、これは私の償いの気持ちとして受け取って欲しいの」
伊坂は激しく首を縦に動かした。
「受け取る!ありがとう、白石さん!」
伊坂が住むという近くの駅に伊坂を降ろしてから、私は平松の車で帰路についた。
「お嬢様、変わられましたね」
車内で平松が言った。
「そう?」
「以前のお嬢様でしたら、お友達にお金を渡すか、勝手に買って押しつけるか、でしたのに」
(・・・押しつけるって。多分るーちゃんは親切心でやっていたけど、そういう風に人の目には映っていたのか)
「今回は、ちゃんとお友達の意見も聞いていましたね。やり方は少し強引でしたが」
(やっぱり…)
私は自己嫌悪に陥りながら、窓の外を見た。
藤堂のあの表情から、下手なドレスを着ていったらぜったい標的にされると踏んだ。そのせいで焦ってしまったのだ。
「やりすぎたかな・・・」
しかし、その時スマホがピロンと鳴り、伊坂からメッセージが来た。
【今日はありがとう!試着の時とか緊張してたけど、本当はとっても楽しかったの!ドレスもとっても可愛いし、明日が楽しみ!】
ゆるキャラのスタンプも付いている。
「良かった・・・」
【気に入ってくれて良かった。また明日】と返信し、私はふうと息を吐いた。
あと残る問題は一つ。
「あ、そうだ。急で、申し訳ないんだけど、もう一つだけ頼まれごとをしてくれない?」
「なんでしょう?」
平松がミラー越しに聞いた。
高級ドレスが並ぶ店内で、肩身狭そうに伊坂が言った。
「ドレスをいくつか見立てて頂きたいの」
女性の店員にそう声をかけると、すぐさま様々なドレスが揃った。
「ごめんなさいね、伊坂さん。試着をお願い出来るかしら?」
「え、ええ?」
未だに状況が把握できていない、伊坂を試着室へと案内する。
二回、三回と何度か試着を行い、伊坂に似合っているドレスが見つかった。
オフショルダーの濃い青のドレス。ウエストの部分にはアクセントに白いリボンが付いている。
「似合っているわ。どうかしら?」
「うん、凄く素敵・・・」
「では、これを下さい」
私は店員に向かって言った。
驚いて口をパクパクさせている伊坂を背後に感じながらも、言葉を続ける。
「それから、このドレスに合う靴とバッグもお願いします」
「し、白石さん…?」
「かしこまりました」
そして物の見事に、パーティー用の買い物が終了した。
店を後にした時には、伊坂は大量の紙袋を両手に抱えている。
「平松に持ってもらえばよろしいのに」
後ろから静かについて来る平松をちらりと見ながら、私は言った。
「いいえ!」
伊坂は首を振った。大事そうに袋を抱え、申し訳なさそうに言った。
「でも、こんなにいいの?かなり高価なんでしょ?」
「私の方こそ、ごめんなさいね。明日のパーティー、私のせいで参加する羽目になって。だから、これは私の償いの気持ちとして受け取って欲しいの」
伊坂は激しく首を縦に動かした。
「受け取る!ありがとう、白石さん!」
伊坂が住むという近くの駅に伊坂を降ろしてから、私は平松の車で帰路についた。
「お嬢様、変わられましたね」
車内で平松が言った。
「そう?」
「以前のお嬢様でしたら、お友達にお金を渡すか、勝手に買って押しつけるか、でしたのに」
(・・・押しつけるって。多分るーちゃんは親切心でやっていたけど、そういう風に人の目には映っていたのか)
「今回は、ちゃんとお友達の意見も聞いていましたね。やり方は少し強引でしたが」
(やっぱり…)
私は自己嫌悪に陥りながら、窓の外を見た。
藤堂のあの表情から、下手なドレスを着ていったらぜったい標的にされると踏んだ。そのせいで焦ってしまったのだ。
「やりすぎたかな・・・」
しかし、その時スマホがピロンと鳴り、伊坂からメッセージが来た。
【今日はありがとう!試着の時とか緊張してたけど、本当はとっても楽しかったの!ドレスもとっても可愛いし、明日が楽しみ!】
ゆるキャラのスタンプも付いている。
「良かった・・・」
【気に入ってくれて良かった。また明日】と返信し、私はふうと息を吐いた。
あと残る問題は一つ。
「あ、そうだ。急で、申し訳ないんだけど、もう一つだけ頼まれごとをしてくれない?」
「なんでしょう?」
平松がミラー越しに聞いた。