悲劇のフランス人形は屈しない
夜9時過ぎ。
私は目の前のスマホと睨めっこしていた。
「いくか・・・。いやー・・・」
ぽすんとベッドに倒れ込む。
もうかれこれ数時間、未だ嫌いな相手に電話をする勇気が出ない。
天城(てんじょう)、苦手なんだよな~」
宙に向かって私は呟いた。
普段は無表情で無口なくせに、白石透のことになると負の感情が溢れ、目だけで人を殺せそうなほどの嫌悪感を露わにする。
「お前は、憎しみが原動力かい!」
一人突っ込んでから、はあとため息を吐いた。
「こんなことしてても、埒があかない」
私がガバッと起き上がった。
「とりあえず電話して、その履歴を平松に送れば、誘った証拠となるでしょう!」
平松に教わった番号をスマホに入力し、電話をかける。
(二回鳴らして切ろう)
プルルル・・・
(出るな、出るな)
プル・・・
『はい』
(げっ、出た!)
『もしもし?』
「・・・あ!もしもし。白石ですが」
『何』
一気に天城の声のトーンが氷点下まで下がった。負けずに明るい声を出すように努める。
「明日、藤堂さんの誕生日会あるの。都合が合えば、一緒に行かないかな~と思って」
電話の向こうで沈黙が流れた。
「あ、あの・・・?」
『くだらない事で電話するな。迷惑』
一方的にぶちっと切られ、私の堪忍袋の緒も切れた。
「あの天城のやろー!こっちが下手に出てやったら調子に乗りやがって!!」
スマホをベッドに投げ捨てる。
「こっちだって、誘いたくて誘ってんじゃないわー!」
「お姉さま…?」
いつの間にか習い事から帰宅していた、妹がドアのところに立っていた。
(あ、あれ、ドアは閉めておいたはず…?)
「まどか。き、今日は、早かったんだね…」
全身の毛穴という毛穴から冷や汗が放出している。
「まどか・・・?」
妹はしばらくその場に立ち尽くしていたが、静かにドアを閉めた。
(や、やらかしたー!)
一番見られたくない、見せてはいけない相手に、見られてしまった。
「私、終わりかも・・・」
詰んだことを悟った。
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