悲劇のフランス人形は屈しない
「あー、怖かった」
門の外で平松が来るのを待っている間、伊坂が隣で大きなため息を吐いた。
「お嬢様たちっていつもあんな感じなの?」
「どこの世界も一緒よ」
私はまっすぐ前を向いたまま言った。
強い者が弱い者を支配する、弱肉強食の世界。それは、お金があってもなくても同じ。
「ねえ、白石さん。本当にいいの?藤堂さんたちが言うくらいだから、相当高価なドレスなんでしょ。こんなの受け取れないよ」
私は勿体なさそうにドレスを触る伊坂を見た。
「こんな素敵なドレス、もう着る機会もないと思うし」
きっともう二度とお金持ちのパーティーには誘われない、と寂しげに呟く伊坂。
「卒業パーティーがあるわ。ぜひその時も着てらして」
そう言って、胸がツキンと痛んだ。
白石透が出ることがなかった卒業パーティー。自分も出られるのか、まだ分からない。
「それに」
私は付け加える。
「その素敵な青色、残念ながら私には似合わないわ。そのドレスは、伊坂さんのためのドレスよ。だから、返すなんて悲しいこと言わないで」
そこまで言うと伊坂は黙った。
「気が晴れないというのなら、これはどうかしら。この前の話じゃないけど、私の家庭教師をしてくれない?そうね、週3で放課後1時間とか」
「やる!やります!」
伊坂が元気よく手を上げた。
「全然金額が見合わないと思うけど、やります!テスト前とか、予想問題も作ります!」
「心強いわ」
それから、私の手を握って言った。
「私、決めた!白石さんの成績を爆上がりさせる!」
「爆・・・?」
とっても心強い言葉のはずなのに、なぜだろう。凄く不安がよぎる。
「テストで満点を取って、先生達をぎゃふんと言わせましょう!」
今この瞬間、キラキラと目を輝かせている伊坂を止められる者は誰もいなかった。


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