悲劇のフランス人形は屈しない
「お姉さま、これ見て」
私のベッドの上で、妹がノートパソコンを操作している。
勉強机に向き合い、握力グリップ片手に伊坂の作った日本史の問題を解いていた私は顔を上げた。
「前世のお姉さまが働いていた会社を見つけたわ」
「え!嘘」
椅子から思い切り立ち上がり、妹の隣に寝転んだ。
「ここよね、このソウコージャパン株式会社」
「そう!この会社!」
会社のホームページは確かに見覚えがあった。
「え、でもなんでこの世界に存在しているの?」
「〈非フラ〉の作者が、お姉さまの世界に実在したものをこの世界にも取り入れたって考えるのが筋ね」
画面から目を離さずに妹は言った。
「でも」
私は言葉を濁らせた。
「漫画には一度もこの会社は登場しなかったはず・・・」
(描かれていなくても存在するなんてことがある?)
「社員紹介があるわ」
妹はタブをクリックし、そのページを開いた。
「この中に誰か見覚えは?」
マウスを動かし、人物写真が載っているページをざっと見る。
「いないなあ・・・」
男性が大半を占めている社員の中に、生前お世話になった先輩達は一人もいなかった。
「なら、本当に作者が名前を借りただけね」
ふうんとつまらなさそうに妹は言った。
私以上にこの状況に興味を持って色々調べているようだ。
「・・・ねえ、まどか。こんなことしてていいの?勉強は?」
隣で未だ会社概要を読んでいるまどかに声をかける。
「もう終わったわ。塾でやっている内容って全部簡単なんだもの」
綺麗に切りそろえられた髪を耳にかけている、幼い小学生を見つめた。
(そうだった。この子天才だった)
天才が故になんでも簡単に出来てしまい、その知恵と知識を悪いことへと使うようになる。
「お姉さまこそ、最近どうなの?」
妹がこっちを向いた。
「そろそろ試験があるのでなくて?」
「そうなのよ」
私はベッドに突っ伏した。
「6月末のテストで赤点を取ったら、夏休み中も学校で勉強。そして、夏休み明けの9月にももう一度テストがあるんだって。テストが多過ぎるー」
「学校のパソコンにハッキングして、試験問題を盗む?」
「はい?」
思わず顔を上げて、妹を見つめた。
「冗談よ」
軽く笑いながら、まどかはパソコンを閉じた。
(…この子ならやりかねない)
私はごくりと生唾をのみ込んだ。
(なぜなら、るーちゃんをネットで虐めた張本人だから)
学校へ行く以外は常に家に籠もりきりだった白石透。そして唯一心が落ち着く場所が、SNSだった。誰も自分のことを知らない世界、SNS上で友達を作っていた。しかし、偽名でいたにも関わらず、透のハンドルネームを妹が見つけ出し、ネット上でも叩かれるようになった。妹の行動は愛情の裏返しだった。構ってくれない姉と唯一コミュニケーションが取れる場であったのに、妹の中で恋しさや愛情はいつの間にか憎悪に変化していた。
「じゃあ、そろそろ寝るわ」
まどかは眠そうにあくびをし、部屋から出て行った。
(とにかく、妹と疎遠になってはいけない)
私はそう心に堅く決めたが、そんな決心を揺らがす事件が起きる。
私のベッドの上で、妹がノートパソコンを操作している。
勉強机に向き合い、握力グリップ片手に伊坂の作った日本史の問題を解いていた私は顔を上げた。
「前世のお姉さまが働いていた会社を見つけたわ」
「え!嘘」
椅子から思い切り立ち上がり、妹の隣に寝転んだ。
「ここよね、このソウコージャパン株式会社」
「そう!この会社!」
会社のホームページは確かに見覚えがあった。
「え、でもなんでこの世界に存在しているの?」
「〈非フラ〉の作者が、お姉さまの世界に実在したものをこの世界にも取り入れたって考えるのが筋ね」
画面から目を離さずに妹は言った。
「でも」
私は言葉を濁らせた。
「漫画には一度もこの会社は登場しなかったはず・・・」
(描かれていなくても存在するなんてことがある?)
「社員紹介があるわ」
妹はタブをクリックし、そのページを開いた。
「この中に誰か見覚えは?」
マウスを動かし、人物写真が載っているページをざっと見る。
「いないなあ・・・」
男性が大半を占めている社員の中に、生前お世話になった先輩達は一人もいなかった。
「なら、本当に作者が名前を借りただけね」
ふうんとつまらなさそうに妹は言った。
私以上にこの状況に興味を持って色々調べているようだ。
「・・・ねえ、まどか。こんなことしてていいの?勉強は?」
隣で未だ会社概要を読んでいるまどかに声をかける。
「もう終わったわ。塾でやっている内容って全部簡単なんだもの」
綺麗に切りそろえられた髪を耳にかけている、幼い小学生を見つめた。
(そうだった。この子天才だった)
天才が故になんでも簡単に出来てしまい、その知恵と知識を悪いことへと使うようになる。
「お姉さまこそ、最近どうなの?」
妹がこっちを向いた。
「そろそろ試験があるのでなくて?」
「そうなのよ」
私はベッドに突っ伏した。
「6月末のテストで赤点を取ったら、夏休み中も学校で勉強。そして、夏休み明けの9月にももう一度テストがあるんだって。テストが多過ぎるー」
「学校のパソコンにハッキングして、試験問題を盗む?」
「はい?」
思わず顔を上げて、妹を見つめた。
「冗談よ」
軽く笑いながら、まどかはパソコンを閉じた。
(…この子ならやりかねない)
私はごくりと生唾をのみ込んだ。
(なぜなら、るーちゃんをネットで虐めた張本人だから)
学校へ行く以外は常に家に籠もりきりだった白石透。そして唯一心が落ち着く場所が、SNSだった。誰も自分のことを知らない世界、SNS上で友達を作っていた。しかし、偽名でいたにも関わらず、透のハンドルネームを妹が見つけ出し、ネット上でも叩かれるようになった。妹の行動は愛情の裏返しだった。構ってくれない姉と唯一コミュニケーションが取れる場であったのに、妹の中で恋しさや愛情はいつの間にか憎悪に変化していた。
「じゃあ、そろそろ寝るわ」
まどかは眠そうにあくびをし、部屋から出て行った。
(とにかく、妹と疎遠になってはいけない)
私はそう心に堅く決めたが、そんな決心を揺らがす事件が起きる。