悲劇のフランス人形は屈しない
白石透から離れた二人は、天城の待つ今は使われていない生徒会室へと向かった。
「海斗~!」
元気よくドアを開け、蓮見は革張りのソファーに勢いよく座った。
「俺、今回も学年2位」
「良かったな」
読んでいる本から顔を上げずに天城が言った。
「相変わらず興味なし!・・・あ、さっき、職員室の前でお前の婚約者に会ったぞ」
「海斗、婚約者なんていたの?」
五十嵐が長い前髪の奥から天城を見た。
「旭。お前、知らなかったのかよ!」
爆笑しながら蓮見が五十嵐の肩を叩く。
「初等部の頃から有名だったろ!」
「僕、しばらく海外にいたし」
ああ~そうだったと蓮見が頷いた。
「ただの酔った大人の口約束だ。本当の婚約者じゃない」
「白石ちゃんの方は、本気にしてると思うけどね」
蓮見が肩をすくめた。
「さっき壮真が迫ってた子?小さくてよく見えなかった」
「迫ってないわ!」
心外だと言わんばかりに蓮見が唇を尖らせる。
「海斗が、最近白石ちゃんの雰囲気が違うって言うから確認しただけ!」
「・・・雰囲気が違う。そうなの?」
五十嵐にそう問われて、天城は本から顔を上げた。
「少しだけ」
「どんな風に?・・・昔を知らないから、聞いても分からないと思うけど」
蓮見がやれやれと頭を振りながら、五十嵐の肩を組む。
「旭。途中いなかったとは言え、一応初等部から中等部までずっと一緒だったぞ。高校に入ってからはあまり見かけなくなったけど、つい最近まで毎日俺らに付きまとっていた奴いただろ。何回追い払ってもしつこかった子だよ」
「・・・いたっけ?」
「人に興味なさすぎる!」
蓮見は全力で五十嵐に突っ込んでいる。
そんな様子を微塵も気にしていない天城は、一人考え込みながら言った。
「雰囲気だけでいうと、前はもっとスライムだったけど、今はサッカーシューズの裏みたいな」
「スパイクな!ってか例え方が独特!…いや、なんか分かるけども!」
「面白そうな婚約者だね」
眠たそうに五十嵐は言った。
「でも、お前に何か考えがあるんだろ?」
蓮見がちらりと天城を見た。
「婚約解消するとか、なんとか・・・」
無表情からは何も読み取れないが、天城が低い声で呟いた。
「人はすぐには変われないからな」
「・・・元スライムだしね」
「お前は黙っとれ!」
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