悲劇のフランス人形は屈しない
「朝から疲れたー」
私は机に突っ伏した。
(変なのに絡まれて始まる一日ってなんなの・・・)
「白石さん、ごきげんよう!」
伊坂が元気に声をかけてきた。急いで来たのか、額には汗が光っている。
「ごきげんよう」
すっと姿勢を正し、私は笑顔を作った。
「明日から、夏休みだね。何か予定はあるの?」
私の前の席に座り、伊坂が聞いた。
「特には。伊坂さんは?」
「私は主にバイトかな。夏休みは稼ぎ時だからね!」
嬉しそうに伊坂は言った。
「バイトしたお金で何するの?」
純粋に聞いた問いに対し、伊坂は少し戸惑いを見せた。
「え、えっとね。バッグが欲しくて・・・」
「バッグ?」
伊坂が小声になるので、私も思わず声を小さくする。
「郡山さんが好きなブランドあるでしょ?あのブランドのバッグが欲しくて。今、凄く流行っているみたいだから」
私はちらりと、郡山を見た。
ピアスから時計、バッグから靴まで全身高級ブランド尽くめの郡山は、クラス女子の羨望の眼差しだった。今も取り巻き女子に向かって、髪につけたバレッタがいかに入手困難だったかを説明している。
「あのバッグかしら?」
郡山が机の横にかけているバッグを見ながら、私は聞いた。
(似たようなものがクローゼットにあった気がする・・・)
「あのバッグは無理!」
慌てて伊坂が首を横に振った。
「あの大きさのバッグは絶対無理だけど、小さいサイズが店頭にあって」
ポケットからスマホを取り出し、ブランドのサイトを見せてきた。
「これ。このサイズのバッグなら、頑張れば買えるかなって」
スマホ一台入るサイズの肩掛けのバッグは、一つ23万円だった。高校生が自分でバイトして買うには高すぎる気がする。
「これを買うために今必死でバイトしているの!」
「どうしてこれが欲しいの?」
郡山と同じく、全身ブランド尽くしの私が聞くのもおかしいか、と冷静になる。
しかし、白石透は自分のためと言うより、母親の着せ替え人形のようにブランドを身につけているとしか思えなかった。
「流行だから、かな。あと純粋に可愛い!」
少し考えてから伊坂は笑顔で言った。
皆が持っているものが良く見えてしまう現象は、大学生の時に経験済みだった。ブランド品を持つことは一種のステータスであったが、常に生活費でいっぱいいっぱいだった自分には手の出せない代物だった。だからこそ欲しくて、バイトを掛け持ちしながら必死で貯めたお金で買った割に、いざ持ってみると何も感じず、焦燥感だけが残った。
(どうも自分の学生時代を伊坂さんに重ねてしまう・・・)
「ねえ、伊坂さん・・・」
そう声をかけた時始業のチャイムが鳴り、担任の先生が入って来た。
「みんな、席に着いて。これから、夏休みの宿題一覧表を配るぞ」
田中は一番前の席にそれぞれ紙の束を渡す。
「今回のテストで赤点を取った生徒は来週から補習がある。部活と被って出席が難しいという生徒は、相談しに来い。分かっていると思うが、前期に学習した内容とこの夏休みの課題を全てまとめた試験を、休み明けの9月に行う。この試験は、内申点にかなり影響されるから、夏休みだからと言って気を抜きすぎないように」
回って来た宿題一覧を見て、私は愕然とした。
この学校は、休みの日でも休まず勉強をさせる気なのか。
(夏休みは宿題で終わるな・・・)
その間も先生は夏休みの間の注意事項などを延々と話していたが、私の耳には入って来なかった。
私は机に突っ伏した。
(変なのに絡まれて始まる一日ってなんなの・・・)
「白石さん、ごきげんよう!」
伊坂が元気に声をかけてきた。急いで来たのか、額には汗が光っている。
「ごきげんよう」
すっと姿勢を正し、私は笑顔を作った。
「明日から、夏休みだね。何か予定はあるの?」
私の前の席に座り、伊坂が聞いた。
「特には。伊坂さんは?」
「私は主にバイトかな。夏休みは稼ぎ時だからね!」
嬉しそうに伊坂は言った。
「バイトしたお金で何するの?」
純粋に聞いた問いに対し、伊坂は少し戸惑いを見せた。
「え、えっとね。バッグが欲しくて・・・」
「バッグ?」
伊坂が小声になるので、私も思わず声を小さくする。
「郡山さんが好きなブランドあるでしょ?あのブランドのバッグが欲しくて。今、凄く流行っているみたいだから」
私はちらりと、郡山を見た。
ピアスから時計、バッグから靴まで全身高級ブランド尽くめの郡山は、クラス女子の羨望の眼差しだった。今も取り巻き女子に向かって、髪につけたバレッタがいかに入手困難だったかを説明している。
「あのバッグかしら?」
郡山が机の横にかけているバッグを見ながら、私は聞いた。
(似たようなものがクローゼットにあった気がする・・・)
「あのバッグは無理!」
慌てて伊坂が首を横に振った。
「あの大きさのバッグは絶対無理だけど、小さいサイズが店頭にあって」
ポケットからスマホを取り出し、ブランドのサイトを見せてきた。
「これ。このサイズのバッグなら、頑張れば買えるかなって」
スマホ一台入るサイズの肩掛けのバッグは、一つ23万円だった。高校生が自分でバイトして買うには高すぎる気がする。
「これを買うために今必死でバイトしているの!」
「どうしてこれが欲しいの?」
郡山と同じく、全身ブランド尽くしの私が聞くのもおかしいか、と冷静になる。
しかし、白石透は自分のためと言うより、母親の着せ替え人形のようにブランドを身につけているとしか思えなかった。
「流行だから、かな。あと純粋に可愛い!」
少し考えてから伊坂は笑顔で言った。
皆が持っているものが良く見えてしまう現象は、大学生の時に経験済みだった。ブランド品を持つことは一種のステータスであったが、常に生活費でいっぱいいっぱいだった自分には手の出せない代物だった。だからこそ欲しくて、バイトを掛け持ちしながら必死で貯めたお金で買った割に、いざ持ってみると何も感じず、焦燥感だけが残った。
(どうも自分の学生時代を伊坂さんに重ねてしまう・・・)
「ねえ、伊坂さん・・・」
そう声をかけた時始業のチャイムが鳴り、担任の先生が入って来た。
「みんな、席に着いて。これから、夏休みの宿題一覧表を配るぞ」
田中は一番前の席にそれぞれ紙の束を渡す。
「今回のテストで赤点を取った生徒は来週から補習がある。部活と被って出席が難しいという生徒は、相談しに来い。分かっていると思うが、前期に学習した内容とこの夏休みの課題を全てまとめた試験を、休み明けの9月に行う。この試験は、内申点にかなり影響されるから、夏休みだからと言って気を抜きすぎないように」
回って来た宿題一覧を見て、私は愕然とした。
この学校は、休みの日でも休まず勉強をさせる気なのか。
(夏休みは宿題で終わるな・・・)
その間も先生は夏休みの間の注意事項などを延々と話していたが、私の耳には入って来なかった。