悲劇のフランス人形は屈しない
話がまとまったところで、帰宅しようと玄関に向かっていたところのことだった。
「あら、白石さん!奇遇ね!」
後ろから可愛い声がしたかと思うと、隣にいた伊坂の体がこわばった。
(出たな、藤堂)
「聞きまして?来週の土曜のこと」
逃がさないためか、藤堂は私の前に立ちはだかった。相変わらず取り巻きが二人、後ろに控えている。
「なんのことでしょう?」
素直に返答をしただけなのに、藤堂は可笑しそうに私の肩を押した。
「またまた~!白石さんったら。パーティーですわよ。蓮見さま主催の」
そういえば今朝そんなことを言っていたな、とぼんやり思い出す。
「もちろん、天城さまも来ますわよね?」
「ええ、そうみたいですね」
今朝の蓮見の言葉が脳内で再生される。
(私には関係ないけど・・・)
「まあ!楽しみですわ!」
藤堂は本当に更に声のトーンを上げて、両手を合わせた。
「プールサイドのパーティーですのよ!水着が必須ですわね」
「あの、私はそろそろ・・・」
伊坂が腕時計を気にしながら、口ごもるように言った。
「あら、貴女!」
藤堂は今、伊坂の存在に気がついたようだ。
「いつぞやは私のパーティーに来てくれて、ありがとう!今回のパーティーもいらっしゃったら?蓮見さまは、誰でも歓迎っておっしゃっていましたわ」
「えっと、私は・・・」
伊坂は困ったように私の方に視線をやる。私は軽く首を振ったが、藤堂が声を張り上げた。
「ああ!今回も白石さんと来るのね!でも、白石さんは天城さまのエスコートで…」
話が終わらないなと思った私は、さっと手で藤堂を制す。
「藤堂さん。申し訳ないですが、私も急いでいるので、これで失礼しますね。伊坂さん、行きましょう」
「あ、うん」
その場に残された藤堂は、唇を噛んだままじっと二人の後ろ姿を見ていた。
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