悲劇のフランス人形は屈しない
この日は、明日から夏期講習が始まってしまう妹と過ごせる、貴重な一日となった。
「これは?」
目の前に置かれたランチを、まどかは凝視している。
「エッグベネディクト。知らない?」
私は自分の分を妹の真向かいに置き、席についた。
「聞いたことはあるけど、食べたことはないわ」
パンの上に乗っている、半熟の卵を感動しながら二つに割っている。
「いただきます」
丁寧に両手を合わせると、まどかは一口頬張った。
「美味しい!このとろとろの卵とソースが合う!」
「良かった」
瞳をキラキラさせながら感動している妹の姿に思わず笑みがこぼれる。
「まどかは外食が多いから、こういうの食べていると思った」
ナイフとフォークを使い、私も食べ始める。
「おにぎりやサンドイッチが多いわ。手軽ですぐ食べられるから」
塾や習い事の合間に食べているのを想像すると、なんだか胸が痛くなる。
「こうやって出来たてを食べるのは、本当に美味しいわね」
「食べたいものがあったら言ってね。作るから」
大したものは無理だけど、と予防線を張っておく。
「本当?私、たこ焼きが食べたいわ!」
身を乗り出すようにしてまどかが言った。
「たこ焼き?」
意外な料理が出てきた。
「ええ!お祭りの屋台で食べているのを見かけたことがあって。でもお母様には衛生的に絶対ダメと言われてしまったの。それ以来、たこ焼きを食べるのが夢なの」
「たこ焼き器があれば、すぐだけどね」
「え!お家でたこ焼きが出来るの?」
屋台でしか食べられないものだと思っていたのか、驚きで目を丸くしている。その様子があまりにも可愛くて、私は思わず笑ってしまった。
「この夏休みの間に、たこ焼きパーティーしようか」
「うん!」
そして、結構早い内にまどかの夢は叶う。
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