悲劇のフランス人形は屈しない
「たこ焼き・・・?」
伊坂が呆気にとられた様子で聞いた。
きっとお金持ちのディナーだから、相当のものが出てくると予想していたに違いない。
「ええ。まどかのリクエストなの。ごめんなさい、もし他に…」
「言ってくれれば!たこ焼き器持っていたのに!」
意外と乗り気だった伊坂は、腕をまくった。
「焼くのは私に任せて!」
「お願いするわ」
私もたこ焼きを焼くのは大得意だったが、白石透はたこ焼きを焼くキャラではない。ここは伊坂の腕を信じることにした。
まどかは興味津々で、目の前で丸い玉がコロンコロンと出来上がるのを凝視していた。
「どうぞ」
出来上がったものを3つほどお皿に乗せ、最後にかつおぶしとマヨネーズやソースをまぶし、伊坂が妹の前に差し出した。
「い、いただきますわ・・・」
憧れのたこ焼きを前にして、妹は声を震わせている。
「熱いから気をつけて」
私がそう言ったのと同時に、まどかは一個まるごと口に入れた。
「・・・あっつ!」
誰もが経験するたこ焼きの洗礼を受けはしたが、妹は満足そうだ。水で口内を冷やし、飲み込むと妹は一言「これがたこ焼きなのね」と恍惚の表情で呟いた。
「どんどん焼くからね」
伊坂が嬉しそうに言った。
全員が満足するほど味わったところでたこ焼きパーティーは終了し、平松が気を利かせて買って来たフルーツタルトを食べていると、伊坂がまどかの顔をじっと見つめながら言った。
「白石家は、妹ちゃんも格別に可愛いね」
「どうしたの?急に」と私。
「私、白石さん級の可愛い子に会ったことがないから。妹ちゃんもそっくりで、二人ともお人形さんみたいだなって」
私は心の中で大いに同意していた。
(るーちゃんの顔は本当に国宝級の可愛さなのよ!)
「それから、静かで上品なところとか、似ているよね」
伊坂が発したその言葉を聞いて、私とまどかは思わず顔を見合わせた。
婚約者の名前を叫びながら暴れ狂う姉に、姉のベッドにダイブしてジタバタする妹。これはお世辞にもお上品とは言えないが、本性を隠して生きているという部分については・・・。
「確かに似てるわね。私たちは」
「そうですわね、お姉さま」
お互いににやりと笑う。
そんな様子に全く気がつかない伊坂は「私ももっとご令嬢みたいになりたい」と、呟いていた。
「あら、もうこんな時間ね」
時計の針が10時を指し、私は言った。
「そろそろお開きにしましょうか。明日も朝から夏期講習よね」
「はい。お姉さまたちも、プールパーティー楽しんでください」
猫を被ったおしとやかなまどかはお辞儀し、その場を離れた。
「出来た妹ちゃんだね。うちの弟とは全く違う」
「伊坂さん、弟がいるの?」
食事の後片付けをしながら、私は聞き返した。
「うん。今小4だから、まどかちゃんと同い年くらいかな。ずっと遊んでて勉強なんか全く出来ないよ。この前もママに怒られてた」
まどかと伊坂の弟、どちらが幸せかを考えるのは止めにした。
「親としては、弟にも真徳高校に入って欲しいみたい。私のことがよく近所の話題に上るんだって。入試で上位に入れば、奨学金も貰えるからパパの負担も減るしね。まあ、期待は出来ないけど」
伊坂は話し続けている。
「パパはサラリーマンなんだけど、ずっと平社員でお給料も高くないんだって。だから、私もあまりお小遣い上げて欲しいとは言えなくて、バイトしてるんだ」
(ああ、それで・・・)
食洗機に食器を並べながら私は思った。
「生活が苦しい訳じゃないけど、やっぱり欲しいものが買えないのは嫌だから」
「なんのバイトをしてるの?」
「駅前の豆カフェって所で働いてるよ。もし良かったら、今度遊びに来て」
「ええ、行かせてもらうわ」
伊坂が呆気にとられた様子で聞いた。
きっとお金持ちのディナーだから、相当のものが出てくると予想していたに違いない。
「ええ。まどかのリクエストなの。ごめんなさい、もし他に…」
「言ってくれれば!たこ焼き器持っていたのに!」
意外と乗り気だった伊坂は、腕をまくった。
「焼くのは私に任せて!」
「お願いするわ」
私もたこ焼きを焼くのは大得意だったが、白石透はたこ焼きを焼くキャラではない。ここは伊坂の腕を信じることにした。
まどかは興味津々で、目の前で丸い玉がコロンコロンと出来上がるのを凝視していた。
「どうぞ」
出来上がったものを3つほどお皿に乗せ、最後にかつおぶしとマヨネーズやソースをまぶし、伊坂が妹の前に差し出した。
「い、いただきますわ・・・」
憧れのたこ焼きを前にして、妹は声を震わせている。
「熱いから気をつけて」
私がそう言ったのと同時に、まどかは一個まるごと口に入れた。
「・・・あっつ!」
誰もが経験するたこ焼きの洗礼を受けはしたが、妹は満足そうだ。水で口内を冷やし、飲み込むと妹は一言「これがたこ焼きなのね」と恍惚の表情で呟いた。
「どんどん焼くからね」
伊坂が嬉しそうに言った。
全員が満足するほど味わったところでたこ焼きパーティーは終了し、平松が気を利かせて買って来たフルーツタルトを食べていると、伊坂がまどかの顔をじっと見つめながら言った。
「白石家は、妹ちゃんも格別に可愛いね」
「どうしたの?急に」と私。
「私、白石さん級の可愛い子に会ったことがないから。妹ちゃんもそっくりで、二人ともお人形さんみたいだなって」
私は心の中で大いに同意していた。
(るーちゃんの顔は本当に国宝級の可愛さなのよ!)
「それから、静かで上品なところとか、似ているよね」
伊坂が発したその言葉を聞いて、私とまどかは思わず顔を見合わせた。
婚約者の名前を叫びながら暴れ狂う姉に、姉のベッドにダイブしてジタバタする妹。これはお世辞にもお上品とは言えないが、本性を隠して生きているという部分については・・・。
「確かに似てるわね。私たちは」
「そうですわね、お姉さま」
お互いににやりと笑う。
そんな様子に全く気がつかない伊坂は「私ももっとご令嬢みたいになりたい」と、呟いていた。
「あら、もうこんな時間ね」
時計の針が10時を指し、私は言った。
「そろそろお開きにしましょうか。明日も朝から夏期講習よね」
「はい。お姉さまたちも、プールパーティー楽しんでください」
猫を被ったおしとやかなまどかはお辞儀し、その場を離れた。
「出来た妹ちゃんだね。うちの弟とは全く違う」
「伊坂さん、弟がいるの?」
食事の後片付けをしながら、私は聞き返した。
「うん。今小4だから、まどかちゃんと同い年くらいかな。ずっと遊んでて勉強なんか全く出来ないよ。この前もママに怒られてた」
まどかと伊坂の弟、どちらが幸せかを考えるのは止めにした。
「親としては、弟にも真徳高校に入って欲しいみたい。私のことがよく近所の話題に上るんだって。入試で上位に入れば、奨学金も貰えるからパパの負担も減るしね。まあ、期待は出来ないけど」
伊坂は話し続けている。
「パパはサラリーマンなんだけど、ずっと平社員でお給料も高くないんだって。だから、私もあまりお小遣い上げて欲しいとは言えなくて、バイトしてるんだ」
(ああ、それで・・・)
食洗機に食器を並べながら私は思った。
「生活が苦しい訳じゃないけど、やっぱり欲しいものが買えないのは嫌だから」
「なんのバイトをしてるの?」
「駅前の豆カフェって所で働いてるよ。もし良かったら、今度遊びに来て」
「ええ、行かせてもらうわ」