悲劇のフランス人形は屈しない

体育祭

体育祭が迫ると、さすがにクラス間で緊張が走っているので読み取れた。本気で優勝を狙っているチームは、一致団結し、休憩時間も練習している様子が見られた。一方で、やる気のない私のクラス、C組みはいつもと何ら変わりのない日々を送っていた。
その中で、ずっと不安そうな様子の伊坂は、体育祭当日の朝、門の前で私を待っていた。
「ごきげんよう」
私はにこやかに挨拶をした。
乾いた風が吹き、夏の陽気もなくなり始めている10月中旬。木々の色の移り変わりが目の保養となる季節になっていた。生徒たちの制服も、夏服から冬服へと移行し、もうすぐ1年が終わるのが肌で感じとれた。
「ご、ごきげんよう。白石さん」
伊坂は気まずそうに私の後ろをついて来る。
「どうかしたの?」
歩幅を伊坂に合わせて、隣に並ぶ。
「白石さんに謝りたくて…」
伊坂が意を決したように、私に向いた。
「郡山さんを止められなくて、ごめんなさい!」
「もしかして、今日の種目のこと?」
つい最近知ったことだが、体育祭のほぼ全競技、つまりリレーからバスケ、ドッチボールに綱引き、玉入れに至るまで全て参加となっていた。プライドの高い郡山がそう決めたということは、クラス優勝より白石透に恥をかかせることに注力したいらしい。
「白石さんが運動苦手だと知っていて、郡山さんが…」
確かに、体育の時間に、クラス全員の前でひょろい球を投げ、投げ返されたボールで鼻血を出すという失態を犯している。
「私は止めたんだけど…」
私以外の満場一致でと、消え入りそうな声で伊坂はまた謝罪した。
(あのクラス内に郡山に反抗出来る人はいないと言えど、全員敵か…)
未だに肩を落としている伊坂に向かって私はにっこり笑った。
「心配しないで。私もやる時はやるわ」
実は今日のこの日が楽しみ過ぎて眠れなかった。
「行きましょう」
不安そうな表情のまま、伊坂は私のあとに続いた。
しかしこの時の私は気づいていなかった。伊坂のこの不安そうな態度は、私を心配していただけではないことを。

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