悲劇のフランス人形は屈しない
「海斗~!」
未だにテンションの高い蓮見は、歩いて来る天城の元へ駆け寄った。
「俺たちが優勝だ!…ておい、どうした!」
天城の顔を覗きこみ、蓮見はぎょっとしたように叫んだ。
「何が?」
抑揚のないトーンで天城は聞き返す。
「何がってお前…。泣きそうな顔してるぞ。何かあったのか?」
蓮見は、天城が歩いて来た方向に目をやった。そこには、伊坂と楽しそうに話している白石透の姿があった。
「もしかして、白石ちゃんと何かあった?」
「別に」
「別にってお前…」
A組のテントに足を運びながら蓮見が天城の背中を叩く。
「あの作戦も失敗だったんだろ」
あの作戦。
白石透が、本当に今までの白石透かどうかを確認するための実験だった。
今まで通りであれば、婚約破棄をすると言えば、焦って取り消すように懇願するか、親の力を借りるか、どちらかだろうと踏んでいた。だがしかし、予想を遥かに超える反応だった。取り乱さず、ただ冷静沈着に婚約破棄を受け入れた。
婚約が破棄出来なくとも、別によし。むしろ逆に、破棄出来たら運が良かった程度に思えるだろうと、と考えていたのに。まさか、突き放されるとは思いもよらなかった。
「俺は拒絶されて失望しているのか?」
天城は独り言のように呟いた。蓮見は天城の顔を覗き込んで聞いた。
「白石ちゃんのこと、まだ嫌い?」
「ああ」
即答の天城に、蓮見はハハッと笑った。
「じゃあ、別にいいじゃん。白石ちゃんに嫌われたって」
「そうだな」
別に問題ない。
そう思っている自分がいるが、心のどこかで、それが不快な自分も存在している。
(嫌いな相手に嫌われたくないなんて矛盾しているな…)
なぜか奇妙な思いが渦巻いている。
天城は空を見上げた。
嵐が来そうだ。
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