悲劇のフランス人形は屈しない

アンカー

私は本日二度目の保健室に訪れていた。
「まあ、まあ、まあ」
先生は丁寧に私の手のひらに包帯を巻いてくれている。
「今度は綱引き?」
私は頷いた。
「貴女はお肌弱いんだから」
綱引きの縄を力強く持っただけで、手のひらの皮が剥けてしまった。ひどく痛む訳ではないが、赤く火照ってしまい、どうしても目立ってしまう。
(るーちゃんは細部に渡るまで繊細すぎる…)
「はい、出来た」
先生がそう言い、私は手を握ったり開いたりした。
(これなら、バトンも持てるな)
「…もしかして、まだ出る気?」
何かを察した先生が、私をじっと見つめた。
「ええ。まだリレーが」
ふうとため息を吐くと、先生は私の肩に手をかけた。
「無理は禁物よ。いきなり別人になんてなれないのだから」
(なっちゃいましたけどね、私は)
「ありがとうございました」
私はお礼を言い、立ちあがった。
「最後はリレーか。きっと保健室に来ることになるわね。待機しているわ」
初等部の頃を覚えているのか、先生は半ば呆れた様子で言った。
しかし、私は先生の期待を思い切り裏切ることになる。
< 77 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop