悲劇のフランス人形は屈しない
閉会式の時間には、天候はどんどん怪しくなり小雨まで振り出していたが、生徒たちの興奮は冷めていないようだった。初等部時代には、かけっこがあると毎回泣きながらゴールをするという別の意味で有名だった白石透が、リレーで3人抜きをしたのだ。
通りすがりの人に、嘲笑と共に何度も背中を叩かれ、私はそろそろ堪忍袋の緒が切れそうだった。
(…ただでさえ、怒りが収まらないと言うのに!)
閉会式が終わり、どこもかしこも着替えを済ませて帰る生徒で溢れかえっている。
私はリレーが終わった辺りから、伊坂の姿が見えないことがずっと気にかかっていた。
リレーで優勝したと知ったら、絶対笑顔で駆けてくるだろうと思っていたが、どこにも見当たらない。
帰る人の波に逆らいながら、空いている教室を探してみるが、見つからなかった。
全ての教室を探し終え、外に出ると突風が吹きつけた。
空は暗く、遠くの方からゴロゴロと雷の音が聞こえてくる。嵐が近づいているから早めの帰宅を、と何度も同じアナウンスが流れていた。既にほとんどの生徒は帰宅したのか、いつの間にか人一人いなくなっていた。
体育館の方へ向かおうとすると、背負っていたリュックと掴まれた。
「どこへ行く」
振り向くと、ジャージから着替えた制服姿の天城が立っていた。
「嵐が来てる」
(天城!)
ここで会ったが100年目と、先ほどの怒りがまた沸々と沸いてきた。
「さっき手を抜いたでしょ」
「何の話」
「リレーの話よ!」
リュックを掴んでいる手をばっと振りほどき、私は天城を睨みつけた。
自分でも分かっている。見上げているこの体勢では威力がさほどないことに。
(これが178センチの時は迫力があったのに…!)
「最後にスピード緩めて、私に優勝を譲ったでしょ」
天城は無表情のまま私を見つめている。
「こっちは本気で勝負していたというのに、本当、馬鹿にしてくれるのね」
「俺は…」
しかし、私と彼の声が重なった。
「あ!伊坂さん…」
そこまで言いかけて、私は口をつぐんだ。
伊坂は一人ではなかった。
天城を校舎の陰に引っ張り、そこから体育館の裏から出て来た、明らかに怪しい様子の二人を見つめた。
伊坂が話している相手は、黒いパーカーのフードを深くかぶっているため、顔が見えない。
相当深刻そうな話をしているのか、伊坂の顔が不安そうに歪んでいる。しかし、ひきりなしに頭を上下に動かし、相づちを打っているのが見えた。
「友達か?」
頭上から天城の声が降って来た。
「一人はね」
声をかけにくい雰囲気のこの状況に迷っている間、二人は一緒にさっと姿を消した。
(…伊坂さんに他に友人がいた?)
彼女に自分が知らない友人がいてもおかしくない。しかし、学校にいる最中は、私と四六時中一緒にいたし、あの様子はただならぬ感じだった。
(あとで連絡してみよう)
この何か嫌な予感がした時に、すぐさま声を掛ければよかったと、私は後悔することになる。
バリバリと雷の音が響き、大粒の雨が降り出した。
「そろそろ危険だな。行くぞ」
天城が腕を引っ張って私を立たせると、そのまま門へと走った。
帰宅してすぐ伊坂に連絡を取ろうとしたが、地域一帯が停電となり、電気の復旧に時間がかかった。
そして復旧した頃には、私は深い眠りについていた。
通りすがりの人に、嘲笑と共に何度も背中を叩かれ、私はそろそろ堪忍袋の緒が切れそうだった。
(…ただでさえ、怒りが収まらないと言うのに!)
閉会式が終わり、どこもかしこも着替えを済ませて帰る生徒で溢れかえっている。
私はリレーが終わった辺りから、伊坂の姿が見えないことがずっと気にかかっていた。
リレーで優勝したと知ったら、絶対笑顔で駆けてくるだろうと思っていたが、どこにも見当たらない。
帰る人の波に逆らいながら、空いている教室を探してみるが、見つからなかった。
全ての教室を探し終え、外に出ると突風が吹きつけた。
空は暗く、遠くの方からゴロゴロと雷の音が聞こえてくる。嵐が近づいているから早めの帰宅を、と何度も同じアナウンスが流れていた。既にほとんどの生徒は帰宅したのか、いつの間にか人一人いなくなっていた。
体育館の方へ向かおうとすると、背負っていたリュックと掴まれた。
「どこへ行く」
振り向くと、ジャージから着替えた制服姿の天城が立っていた。
「嵐が来てる」
(天城!)
ここで会ったが100年目と、先ほどの怒りがまた沸々と沸いてきた。
「さっき手を抜いたでしょ」
「何の話」
「リレーの話よ!」
リュックを掴んでいる手をばっと振りほどき、私は天城を睨みつけた。
自分でも分かっている。見上げているこの体勢では威力がさほどないことに。
(これが178センチの時は迫力があったのに…!)
「最後にスピード緩めて、私に優勝を譲ったでしょ」
天城は無表情のまま私を見つめている。
「こっちは本気で勝負していたというのに、本当、馬鹿にしてくれるのね」
「俺は…」
しかし、私と彼の声が重なった。
「あ!伊坂さん…」
そこまで言いかけて、私は口をつぐんだ。
伊坂は一人ではなかった。
天城を校舎の陰に引っ張り、そこから体育館の裏から出て来た、明らかに怪しい様子の二人を見つめた。
伊坂が話している相手は、黒いパーカーのフードを深くかぶっているため、顔が見えない。
相当深刻そうな話をしているのか、伊坂の顔が不安そうに歪んでいる。しかし、ひきりなしに頭を上下に動かし、相づちを打っているのが見えた。
「友達か?」
頭上から天城の声が降って来た。
「一人はね」
声をかけにくい雰囲気のこの状況に迷っている間、二人は一緒にさっと姿を消した。
(…伊坂さんに他に友人がいた?)
彼女に自分が知らない友人がいてもおかしくない。しかし、学校にいる最中は、私と四六時中一緒にいたし、あの様子はただならぬ感じだった。
(あとで連絡してみよう)
この何か嫌な予感がした時に、すぐさま声を掛ければよかったと、私は後悔することになる。
バリバリと雷の音が響き、大粒の雨が降り出した。
「そろそろ危険だな。行くぞ」
天城が腕を引っ張って私を立たせると、そのまま門へと走った。
帰宅してすぐ伊坂に連絡を取ろうとしたが、地域一帯が停電となり、電気の復旧に時間がかかった。
そして復旧した頃には、私は深い眠りについていた。