悲劇のフランス人形は屈しない

突然の転校

体育祭から一週間が経ち、停電の復旧作業も終わった頃、学校が再開となった。
「既読がつかない…」
窓際の席に着き、私はスマホを見つめていた。
停電後、スマホが使えるようになってからすぐに伊坂に連絡したが、1週間経った今でも既読すらつかない。
学校へ来れば会えると思い、早めに登校したが、伊坂はまだ姿を見せない。
(バイトが忙しいのかな)
ブランド品を買うために、夜までバイトしている伊坂は、時々時間ぎりぎりに登校することもあったが、遅刻することはおろか欠席することは一度もなかった。
―体育祭の後話したいことがある。
そう不安げに言っていた伊坂の表情が忘れられない。
心配で喉元まで大きな塊が込み上げて来る。
始業のベルが鳴り、担任の田中が入って来ても、伊坂はやって来なかった。
「皆、席に着け。ホームルーム始めるぞ」
教卓に手をつき、先生は教室全体を見渡した。
「突然だが、伊坂が転校することになった」
「え?」
驚いたのは私一人ではないようだった。
「転学の手続きは少し前からしていたが、本人がどうしても体育祭に参加したいと希望していた為、このタイミングとなった。理由は、父親の転勤によるものだ」
「学年トップがいなくなったのね」
私の方をちらりと見ながら、郡山が顔を歪めて笑った。
「誰かさんも、トップ3から落ちるかしら」
かっと頭に血が上ったが、奥歯を食いしばって耐える。
冷静さを取り戻した頭が少しずつ回転を始める。
(伊坂さんが話したかったことって、このこと?)
しかし、何かがおかしい。
私は再度スマホを確認した。
既読がつかないメッセージ。突然の転勤。
(父親の転勤だったら、言ってくれたはず)
隠し事があまりなく、何でも裏表なく話してくれる伊坂が、ただの父親の転勤だって言えない訳がない。
それに、と私は考えた。
(伊坂家は、真徳高校に入れたことを誇りに思っていた。弟も入れたいと言ってくらいだから。だからこそ父親の転勤だけで、諦めるとは思えない)
「もしかして…」
体育館から出て来た伊坂とフードを被った人物。
(あの人が伊坂さんの突然の転校と何か関係が…?)
伊坂と連絡が取れない今、調べる方法はただ一つしか残っていなかった。
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