悲劇のフランス人形は屈しない
金曜日の夜。
妹が帰宅するとすぐに自室に引っ張って来た。
夜遅く帰宅して疲れているとは思ったが、相談する相手は妹しかいなかった。
「見つけたわ」
まどかのパソコンを見つめながら言った。
学校の監視カメラに侵入してもらい、体育祭当日の伊坂の行動を追いかけてもらった。特に午後2時以降、ちょうどリレーが始まる時間だ。
「これ、伊坂さんでしょ」
私はまどかの横に座り、妹が指したところを見た。
「やっぱり、この時も誰かと一緒にいる」
しかし死角に入っているせいか、伊坂の姿は見えても相手は見えない。
「誰かと話しているみたいだけど」
まどかがキーボードを操作し、時間を早送りする。
誰にも見つからないようにするためか、二人は何度か場所を移動して話しているようだった。
「一体、誰?」
黒いフードを深くかぶっているせいで、顔が全く見えないどころか、男女の性別すら見分けがつかない。
「真徳高校の関係者であることは間違いないわね」
まどかが、何度かシーンを切り替え慎重に観察しながら言った。
「顔が映らない角度をよく知っているもの」
「学校の監視カメラの位置を熟知している人物ってこと?」
妹は頷いた。それから私の方を見た。
「でも、カメラが入ったのは最近のことよ。お姉さまが居残りをさせられた前辺り」
「ということは、再試験時に私を監視させるように言った人物?その時にカメラの位置を確認したという事?」
まどかの丸い瞳を見つめた。
「お姉さまにもう一度試験を受けさせるように学校に掛け合った人物の可能性もあるわ」
「その人がなぜ、伊坂さんに接触を…」
私は画面から目を離し、未だ既読が付かないスマホを見つめた。
「調べてみたけど」
妹は別のウィンドウを開き、何やら沢山文字の書かれている画面を開いた。
「伊坂さんのその後を追ってみたの」
「え?」
私は顔を上げた。
妹が何か怖いことを言っている。
「追うって…」
「伊坂さんって、益田駅近くに住んでいたわよね。その周辺の伊坂という苗字で、家族構成を父母姉弟に絞って、どこへ引っ越したのか、その後を追えるかなと思っていたのだけど」
妹は諦めた様子で肩をすくめた。
「無理だった。まだまだ私じゃ能力不足だったわ」
「いやいや、怖いわ!そこまでしなくても…」
私の突っ込みなど、まどかの耳には入っていない。
「伊坂さんのスマホの電源が入っているなら、何とかなるのだけど」
しかし私の方を見て、ため息を吐いた。
「メッセージに反応がないのなら、電源を切っている可能性は高いわね」
まるでスパイ映画のようなことを言っている妹に、どのように返したらいいか分からない。とりあえず、危険なことはしないで、としか言えなかった。
「こうなると、お姉さまの記憶頼りになるのだけど。覚えていないのよね」
私は頷いた。
「残念だけど、伊坂さんが高1の時にいたかは全く思い出せない。元々描かれていなかったということもあり得るし」
「それか、原作に登場していたけど、何か歪みが生じて退場させられた可能性もあるわね」
(確かに…)
妹の言葉を頭の中で反芻する。
今、私がやっていることは本家のストーリーのまま進めないこと。そうなると、それぞれの登場人物の動きが代わり、途中で退場することも出てくるはず。
もしそうなら、自分のせいなのか…。
そんなことを考えていると、まどかがパソコンを閉じ私の方を向いた。
「お姉さまは大丈夫?唯一の味方がいなくなったのよ」
ずしんと一気に心臓が重くなった気がした。
ずっと一緒にいてくれた伊坂が、いなくなってしまった穴はかなり大きい。
「平気じゃないけど、大丈夫。心強い妹という味方が、ここにいるから」
隣で座っているまだ小さいまどかを抱きしめた。
「頼ってくれて嬉しかったわ」
腕の中で、妹が言った。
孤独な学校生活が始まると思うと、気が滅入る。伊坂の存在は、思った以上に私にとって心の支えとなっていた。
「何か分かったらすぐ報告するわ」
そう言ってくれる妹の言葉に、今はかなり救われた。
妹が帰宅するとすぐに自室に引っ張って来た。
夜遅く帰宅して疲れているとは思ったが、相談する相手は妹しかいなかった。
「見つけたわ」
まどかのパソコンを見つめながら言った。
学校の監視カメラに侵入してもらい、体育祭当日の伊坂の行動を追いかけてもらった。特に午後2時以降、ちょうどリレーが始まる時間だ。
「これ、伊坂さんでしょ」
私はまどかの横に座り、妹が指したところを見た。
「やっぱり、この時も誰かと一緒にいる」
しかし死角に入っているせいか、伊坂の姿は見えても相手は見えない。
「誰かと話しているみたいだけど」
まどかがキーボードを操作し、時間を早送りする。
誰にも見つからないようにするためか、二人は何度か場所を移動して話しているようだった。
「一体、誰?」
黒いフードを深くかぶっているせいで、顔が全く見えないどころか、男女の性別すら見分けがつかない。
「真徳高校の関係者であることは間違いないわね」
まどかが、何度かシーンを切り替え慎重に観察しながら言った。
「顔が映らない角度をよく知っているもの」
「学校の監視カメラの位置を熟知している人物ってこと?」
妹は頷いた。それから私の方を見た。
「でも、カメラが入ったのは最近のことよ。お姉さまが居残りをさせられた前辺り」
「ということは、再試験時に私を監視させるように言った人物?その時にカメラの位置を確認したという事?」
まどかの丸い瞳を見つめた。
「お姉さまにもう一度試験を受けさせるように学校に掛け合った人物の可能性もあるわ」
「その人がなぜ、伊坂さんに接触を…」
私は画面から目を離し、未だ既読が付かないスマホを見つめた。
「調べてみたけど」
妹は別のウィンドウを開き、何やら沢山文字の書かれている画面を開いた。
「伊坂さんのその後を追ってみたの」
「え?」
私は顔を上げた。
妹が何か怖いことを言っている。
「追うって…」
「伊坂さんって、益田駅近くに住んでいたわよね。その周辺の伊坂という苗字で、家族構成を父母姉弟に絞って、どこへ引っ越したのか、その後を追えるかなと思っていたのだけど」
妹は諦めた様子で肩をすくめた。
「無理だった。まだまだ私じゃ能力不足だったわ」
「いやいや、怖いわ!そこまでしなくても…」
私の突っ込みなど、まどかの耳には入っていない。
「伊坂さんのスマホの電源が入っているなら、何とかなるのだけど」
しかし私の方を見て、ため息を吐いた。
「メッセージに反応がないのなら、電源を切っている可能性は高いわね」
まるでスパイ映画のようなことを言っている妹に、どのように返したらいいか分からない。とりあえず、危険なことはしないで、としか言えなかった。
「こうなると、お姉さまの記憶頼りになるのだけど。覚えていないのよね」
私は頷いた。
「残念だけど、伊坂さんが高1の時にいたかは全く思い出せない。元々描かれていなかったということもあり得るし」
「それか、原作に登場していたけど、何か歪みが生じて退場させられた可能性もあるわね」
(確かに…)
妹の言葉を頭の中で反芻する。
今、私がやっていることは本家のストーリーのまま進めないこと。そうなると、それぞれの登場人物の動きが代わり、途中で退場することも出てくるはず。
もしそうなら、自分のせいなのか…。
そんなことを考えていると、まどかがパソコンを閉じ私の方を向いた。
「お姉さまは大丈夫?唯一の味方がいなくなったのよ」
ずしんと一気に心臓が重くなった気がした。
ずっと一緒にいてくれた伊坂が、いなくなってしまった穴はかなり大きい。
「平気じゃないけど、大丈夫。心強い妹という味方が、ここにいるから」
隣で座っているまだ小さいまどかを抱きしめた。
「頼ってくれて嬉しかったわ」
腕の中で、妹が言った。
孤独な学校生活が始まると思うと、気が滅入る。伊坂の存在は、思った以上に私にとって心の支えとなっていた。
「何か分かったらすぐ報告するわ」
そう言ってくれる妹の言葉に、今はかなり救われた。