悲劇のフランス人形は屈しない
「あの時もただならぬ感じだったけど」
何度目か分からないティッシュを差し出しながら幸田は言った。
「こんな小さい体に色々背負っているんだね」
何も知らないはずなのに、全てを見透かされているようだと思った。
知らない世界で、白石透として生きて行く。ただひたすら、るーちゃんの為を思って行動してきた。それが正解かも分からず、ただ闇雲に。そしてがむしゃらに。
そのおかげで、学年3位の成績は取れたし、体育祭でも皆の度肝を抜いた。
「でも、もう伊坂さんもいないし、天城には舐められるし」
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、幼い子供のように私はひたすら泣いた。
「学校も嫌いだし、母親もモンスターだし。ただ、妹は可愛い…」
私の言っていることが意味不明にもかかわらず、男性はうんうんと頷いて聞いてくれる。
それだけで、心が軽くなった気がした。
「落ち着いたみたいだね」
数十分後、ティッシュの箱をテーブルに戻し、幸田が言った。
「…はい」
私はゆっくり頷いた。
気持ちが落ち着き、冷静になって来ると、だんだんと羞恥心が襲って来た。
「す、すみません…」
突然、顔が上げられなくなる。
(何やってんだ。26歳にもなって大泣きとか)
「また、お見苦しいところを」
「気持ちをため込むのは良くないよ。僕も見て来たから。君に似た子を」
「え?」
幸田はドアの方に向いて声を掛けた。
「入って来なよ。かっくん」
かっくんと呼ばれた先ほどの金髪男子が、ばつの悪そうな顔をして入って来た。
「ほら、何か言いたいことがあるんでしょ?」
男子は、静かに私の前に座った。
紫色のカラコンに、いくつもついた刺々しいピアス。そして目が覚めるようなド派手な金髪。反抗心の塊のような姿を見ると、こんなまだ幼い子供の挑発にムキになった自分が恥ずかしくなってきた。
「私こそ、すみませんでした」
先に私が頭を下げた。
それに驚いたのか、金髪男子は焦ったように目を見開いた。しかしそれも一瞬だった。
「こんな子供に、ムキになってしまった私が悪いです」
「こ、子供って。お前も、お前だってまだ…」
金髪男の声が震えた。
「私が大人げなかったです」
「コウちゃん!俺、やっぱりコイツ嫌い!!」
男の大きな声が部屋に響いた。
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