悲劇のフランス人形は屈しない
連れて来られたのは、旧生徒会室だった。
婚約破棄の言い渡された時と、ほとんど同じ状態だった。違うところと言えば、授業に出席しているだろう西園寺響子の姿が見えないこと、天城がなぜか私の隣に座っていることだった。ここに来るや否やソファーに座らせられた私は、ずっと無言を貫いていた。
この三人に何か出来るとも思えない私は、無駄なことにエネルギーを消耗することは避けたかった。
とにかく、一刻も早く藤堂の口を割るのが先決だ。
「何があった」
相変わらずの低い声で天城が聞いた。
私は首を振り、時計を見つめた。
「何もありませんわ。失礼するわね」
「座れ」
天城がまたもや立ち上がろうとする私の腕を掴んだ。
いきなりの命令口調にイラっとするが、顔に出さないように笑顔を作った。
「私の問題なのでお気になさらず」
「今にも人を殺めそうな顔をしてる」
五十嵐が長い前髪の奥から言った。
「今はここにいろ」
「だから…」
天城の腕を掴まれながらも、部屋を出て行こうとする姿勢の私に蓮見が言った。
「ごめんね、白石ちゃん。不器用な奴らで。俺たちは君のことが心配で…」
「私にことは気になさらずに。ただ、この手を離して頂ければ…」
私は立った姿勢のまま、天城の手を見た。
「その足ですぐあの女のところへ行くんだろ」と天城。
「何があったのか聞かせてよ」
五十嵐が、ソファーの背に背中を預けながら言った。
「あのお友だちのことじゃないの?」
蓮見が前のめりになって聞いた。
「ほら、一緒によくいた子。最近見ないよね」
「転校したわ」
私は諦めて、ソファーに浅く座った。
「担任は、父親の転勤と言っていたけど、私はそんな風には思えない。いきなり転校なんてどう考えてもおかしい」
「それで、あの女との関係は?」
ここに来てやっと天城が私の腕を離した。
「さっき言われたわ。伊坂さんが転校したのは、私に近づきすぎたからって。それについて問い詰めようとしていたのに、あなたたちが邪魔してきたから」
「俺たちが入らなったら、乱闘になってたでしょ」
ソファーに体を沈めながら蓮見がため息を吐いた。
「気づいていないと思うけど、白石ちゃんもの凄い形相だったよ」
「妖怪みたいだった」と五十嵐。
「もっとオブラートに包んでやれよ」蓮見が突っ込む声がする。
「そう。これからは気をつけるわ」
抑揚のない回答を返していたが、頭の中では藤堂の言葉を思い返していた。
(庶民と何度も強調していたということは、もしかしてお金が絡んでいる…?伊坂さんは以前、お父さんはただのサラリーマンで、苦労していると言っていたけど、そこまで根回しした可能性は?消えたって、どういうこと?伊坂さんは一体どこに…?)
考えれば考えるほど、不安になってしまう。
じっとしていられなくなり、私はすくっと立ち上がった。
「私はこれで失礼するわ」
「あ、ちょっと、待って!」
意外にも今度は蓮見が私を止めた。
「昔は何度も断っていたけど、今回ばかりは俺たちに頼ってくれたっていいんだよ?」
私は一度、蓮見の顔を見てから、無表情の天城に視線を移した。
「もう頼る理由がないわ」
生徒会室から出て来たものの、廊下を巡回していた先生に見つかり、すぐに教室に戻された。そして下校時間になる時には、すでに藤堂の姿は見つからず、完全にタイミングを逃したのを悟った。
(きっともう藤堂が口を割ることはないだろう)
帰宅後、勉強机に向かい、授業の復習をするが、伊坂のことが頭から離れず、集中出来ない。
私は頭を振った。
(伊坂さんがいなくなって、試験の点が落ちたってなったら。また変な噂になってしまう)
ペンをぎゅっと握りしめ、私は教科書に向き直った。
婚約破棄の言い渡された時と、ほとんど同じ状態だった。違うところと言えば、授業に出席しているだろう西園寺響子の姿が見えないこと、天城がなぜか私の隣に座っていることだった。ここに来るや否やソファーに座らせられた私は、ずっと無言を貫いていた。
この三人に何か出来るとも思えない私は、無駄なことにエネルギーを消耗することは避けたかった。
とにかく、一刻も早く藤堂の口を割るのが先決だ。
「何があった」
相変わらずの低い声で天城が聞いた。
私は首を振り、時計を見つめた。
「何もありませんわ。失礼するわね」
「座れ」
天城がまたもや立ち上がろうとする私の腕を掴んだ。
いきなりの命令口調にイラっとするが、顔に出さないように笑顔を作った。
「私の問題なのでお気になさらず」
「今にも人を殺めそうな顔をしてる」
五十嵐が長い前髪の奥から言った。
「今はここにいろ」
「だから…」
天城の腕を掴まれながらも、部屋を出て行こうとする姿勢の私に蓮見が言った。
「ごめんね、白石ちゃん。不器用な奴らで。俺たちは君のことが心配で…」
「私にことは気になさらずに。ただ、この手を離して頂ければ…」
私は立った姿勢のまま、天城の手を見た。
「その足ですぐあの女のところへ行くんだろ」と天城。
「何があったのか聞かせてよ」
五十嵐が、ソファーの背に背中を預けながら言った。
「あのお友だちのことじゃないの?」
蓮見が前のめりになって聞いた。
「ほら、一緒によくいた子。最近見ないよね」
「転校したわ」
私は諦めて、ソファーに浅く座った。
「担任は、父親の転勤と言っていたけど、私はそんな風には思えない。いきなり転校なんてどう考えてもおかしい」
「それで、あの女との関係は?」
ここに来てやっと天城が私の腕を離した。
「さっき言われたわ。伊坂さんが転校したのは、私に近づきすぎたからって。それについて問い詰めようとしていたのに、あなたたちが邪魔してきたから」
「俺たちが入らなったら、乱闘になってたでしょ」
ソファーに体を沈めながら蓮見がため息を吐いた。
「気づいていないと思うけど、白石ちゃんもの凄い形相だったよ」
「妖怪みたいだった」と五十嵐。
「もっとオブラートに包んでやれよ」蓮見が突っ込む声がする。
「そう。これからは気をつけるわ」
抑揚のない回答を返していたが、頭の中では藤堂の言葉を思い返していた。
(庶民と何度も強調していたということは、もしかしてお金が絡んでいる…?伊坂さんは以前、お父さんはただのサラリーマンで、苦労していると言っていたけど、そこまで根回しした可能性は?消えたって、どういうこと?伊坂さんは一体どこに…?)
考えれば考えるほど、不安になってしまう。
じっとしていられなくなり、私はすくっと立ち上がった。
「私はこれで失礼するわ」
「あ、ちょっと、待って!」
意外にも今度は蓮見が私を止めた。
「昔は何度も断っていたけど、今回ばかりは俺たちに頼ってくれたっていいんだよ?」
私は一度、蓮見の顔を見てから、無表情の天城に視線を移した。
「もう頼る理由がないわ」
生徒会室から出て来たものの、廊下を巡回していた先生に見つかり、すぐに教室に戻された。そして下校時間になる時には、すでに藤堂の姿は見つからず、完全にタイミングを逃したのを悟った。
(きっともう藤堂が口を割ることはないだろう)
帰宅後、勉強机に向かい、授業の復習をするが、伊坂のことが頭から離れず、集中出来ない。
私は頭を振った。
(伊坂さんがいなくなって、試験の点が落ちたってなったら。また変な噂になってしまう)
ペンをぎゅっと握りしめ、私は教科書に向き直った。