悲劇のフランス人形は屈しない
私たちはバスケのコートへと移動した。
「いったん、練習させて」
そう言ってボールを借り、タンタンと地面に打ち付ける。
それから、スリーポイントシュートのラインからゴールに狙いを定め、ボールを放った。ジャンプが足りなかったせいか、ボールはゴールにかすりもせず、落ちた。
「…あれ?」
「ぶふっ」
後ろで笑う榊を睨みつける。
「それで、バスケ上手いって言ってんの?詐欺じゃん」
私はむっとして言い返す。
「寒さで体が動かないんですー!」
「そうかよ」
半笑いで榊は私に近づくと、転がっていたボールを数回床で跳ねさせた。そして、ぐっと膝に力を入れたと思うと、いとも簡単にスリーポイントシュートを決めた。
「腹立つ、こいつ…」
「元バスケ部なんで」
「私だってそうだわ!」
思わず叫んでしまった。
「え、そうなの?」
かなり驚いた様子で榊が聞き返した。
「信じてもらえなくても結構」
「信じてない訳じゃねーけど…」
榊はそう言うと、にやりと笑った。
「1オン1でもやるか?」
完全に舐められている。しかし、こんな子供の挑発に乗るのも癪だ。
断ろうかとしたが、それを読んだのか榊が人差し指の上でボールを回しながら言った。
「俺、年末には帰国するって言ったろ。これが最後のチャンスかもよ」
それから私に向かって片方の眉を上げた。
「俺と勝負したいって言ってたのは、嘘?やっぱり負けるのが怖いとか?」
「挑発上等ー!」
私は我を忘れ、榊からボールを奪うとすぐさま得意のレイアップで1点を取った。いきなりゴールを決めたのに驚いたのか、口が開いている榊に向かってにやりと笑う。
「ふ」
「…にゃろ」
そこからバスケの試合が始まった。
体育祭の時とは異なり、自分の倍も大きい体が低姿勢でガードしてくると、なかなか動けない。しかし、それを迷っている最中にボールは奪われ、簡単にシュートを打たれてしまった。
「ほれ。これで1対4だな」
榊はパーカーの袖をまくり、私に向かってボールを投げた。
最初の一点を入れたきり、ゴールを決めさせてもらえない。同じ元バスケ部だというのに、しかもこっちは高3までバスケ部エースだったというのに。・・・悔しすぎる。
「まだまだ!」
私は低姿勢を維持したままドリブルをし、榊の懐に突っ込んだ。
「お!」
ボールを守りながら、くるりと体を回転させると厳しい体勢だがゴールに向かってボールを放った。
パスっといい音がして、ボールが入った。
「いやったー!3点!」
その場で飛び跳ねる私。
「いや、今のは違うだろ!」
明らからにスリーポイントのラインより前に出ていることに気がついていたが、私は榊の肩をぽんぽんと叩いた。
「小さいことを気にするな」
「100歩譲ったとしても、引き分けだからな!ほら、ボールよこせ」
「ちょっと、いったん休憩で…」
その時、榊の持っている腕時計がぴぴっと鳴った。
「げ。今何時?」
7時を過ぎたあたりだ。
(天城が現れる前に帰るのはもう無理か。でも今ならちょうど入れ替わりにはなるかも)
「じゃあ、私はこれで!会えて良かったわ、不良少年。いや、かっくん!」
「克巳だっての!」
榊は、走り去る私の後ろから叫んだ。
「いったん、練習させて」
そう言ってボールを借り、タンタンと地面に打ち付ける。
それから、スリーポイントシュートのラインからゴールに狙いを定め、ボールを放った。ジャンプが足りなかったせいか、ボールはゴールにかすりもせず、落ちた。
「…あれ?」
「ぶふっ」
後ろで笑う榊を睨みつける。
「それで、バスケ上手いって言ってんの?詐欺じゃん」
私はむっとして言い返す。
「寒さで体が動かないんですー!」
「そうかよ」
半笑いで榊は私に近づくと、転がっていたボールを数回床で跳ねさせた。そして、ぐっと膝に力を入れたと思うと、いとも簡単にスリーポイントシュートを決めた。
「腹立つ、こいつ…」
「元バスケ部なんで」
「私だってそうだわ!」
思わず叫んでしまった。
「え、そうなの?」
かなり驚いた様子で榊が聞き返した。
「信じてもらえなくても結構」
「信じてない訳じゃねーけど…」
榊はそう言うと、にやりと笑った。
「1オン1でもやるか?」
完全に舐められている。しかし、こんな子供の挑発に乗るのも癪だ。
断ろうかとしたが、それを読んだのか榊が人差し指の上でボールを回しながら言った。
「俺、年末には帰国するって言ったろ。これが最後のチャンスかもよ」
それから私に向かって片方の眉を上げた。
「俺と勝負したいって言ってたのは、嘘?やっぱり負けるのが怖いとか?」
「挑発上等ー!」
私は我を忘れ、榊からボールを奪うとすぐさま得意のレイアップで1点を取った。いきなりゴールを決めたのに驚いたのか、口が開いている榊に向かってにやりと笑う。
「ふ」
「…にゃろ」
そこからバスケの試合が始まった。
体育祭の時とは異なり、自分の倍も大きい体が低姿勢でガードしてくると、なかなか動けない。しかし、それを迷っている最中にボールは奪われ、簡単にシュートを打たれてしまった。
「ほれ。これで1対4だな」
榊はパーカーの袖をまくり、私に向かってボールを投げた。
最初の一点を入れたきり、ゴールを決めさせてもらえない。同じ元バスケ部だというのに、しかもこっちは高3までバスケ部エースだったというのに。・・・悔しすぎる。
「まだまだ!」
私は低姿勢を維持したままドリブルをし、榊の懐に突っ込んだ。
「お!」
ボールを守りながら、くるりと体を回転させると厳しい体勢だがゴールに向かってボールを放った。
パスっといい音がして、ボールが入った。
「いやったー!3点!」
その場で飛び跳ねる私。
「いや、今のは違うだろ!」
明らからにスリーポイントのラインより前に出ていることに気がついていたが、私は榊の肩をぽんぽんと叩いた。
「小さいことを気にするな」
「100歩譲ったとしても、引き分けだからな!ほら、ボールよこせ」
「ちょっと、いったん休憩で…」
その時、榊の持っている腕時計がぴぴっと鳴った。
「げ。今何時?」
7時を過ぎたあたりだ。
(天城が現れる前に帰るのはもう無理か。でも今ならちょうど入れ替わりにはなるかも)
「じゃあ、私はこれで!会えて良かったわ、不良少年。いや、かっくん!」
「克巳だっての!」
榊は、走り去る私の後ろから叫んだ。