悲劇のフランス人形は屈しない
扉を開けた先は、別世界だった。
クリスマスパーティーが開始してからだいぶ経っているせいか、会場は既に熱気で包まれていた。体育館全体にクリスマスの装飾を施されており、中央には天井まで届きそうな巨大なクリスマスツリーが飾られていた。
(もはや体育館の原型をとどめてない…)
前方の方では、生のバンド演奏があり、その音楽に合わせて楽しそうに踊っている生徒が至る所でにグループになっている。
端には食事が並べられており、数十人のシェフが出来たての料理を提供している。基本的には立食ではあるが、丸テーブルやいすも用意されており、踊り疲れた人はそこで休憩しているのが見えた。
「あれ、海斗は?」
入り口でぼーっと立っていると、先に会場に入っていた蓮見が声を掛けて来た。
「後ろにいるわ」
藤堂とは別れたのだろうか。彼女の姿は見えない。
「とりあえず、コートはクラークに預けて来なよ。暑いでしょ」
蓮見が指さす方を見ると、簡易的に作られたクラークがあった。
そこで荷物やコートを預かってくれるようだ。
私は白いファーの付いたコートを脱ぎ、クラークに預けた。
すると、その隣にあるテーブルにいた学生が私に声を掛けた。
「出席確認とカップルチケットの登録はこちらです」
「ああ…」
(そうだった。カップルチケットが要るんだっけ)
面倒臭いと思いながらまだ近くにいた蓮見に声を掛ける。
「蓮見さん、登録は?」
蓮見は私を見て、苦笑いをした。
「俺はもうしちゃったんだよね。さっきの子と」
「ああ…」
(手近に済まそうとしたが、残念)
仕方がないと天城を探すが、まだ会場内に入って来ていないようだ。
「あなたが藤堂さんを誘ったの?」
「うん。まあ、頼まれて…」
「誰に?」
私は蓮見の顔を見た。
「誰って、かい…」
「余計なこと言うな」
後ろから天城が現れ、蓮見の首に腕を回した。
「ちょ、ちょっと冗談だって!」
「口を開くな」
二人でじゃれ合っているところを見ると、私はつくづく青春だなと思ってしまう。
(高校生って本当に若いわ…)
「天城さん。一緒にチケットの登録をお願いしたいのだけど」
天城は蓮見から手を離すと大きなため息を吐き、受付の方へと足を向けた。
(そんなあからさまに面倒臭がらなくても)
私はその後ろを追いかける。
(確かに、さっき助けはいらないと言ったけれども。これくらい…)
もう少し天城が優しければ、るーちゃんも嬉しかったと思うのに。
そんな風に考えながら、まじまじと天城の後ろ姿を見つめた。
(まあ、白石透を嫌う設定だから無理か)
二人分のチケットを貰い、投票方法の説明を受ける。
巨大なクリスマスツリーの下に、投票箱があり、キングとクイーンを同学年の生徒の中から一人ずつ選ぶ。もちろん、自分の友人を選んでもいいし、自己推薦をしてもよし。人が多くて分からないと言う人は、キングとクイーン候補の中から選んでもよいとのことだ。
「候補がいるのね」
受付の横には、男女の写真がずらりと並んでいた。真徳高校の1年生から3年生まで、学年ごとにキングとクイーン候補が選ばれ、貼りだされている。
1年のクイーン候補には、藤堂茜や西園寺響子も入っていた。そして、キングにはもちろん天城、蓮見、五十嵐の三人が候補として挙がっていた。
(面倒臭いな。天城にいれておけばいいか)
そんなことを思いながらちらりと横を見ると。
俺に投票したら殺す、と瞳が物語っている険しい表情の天城がいた。
「そんな目で見なくても。五十嵐さんに入れるわよ」
安全牌の五十嵐を選ぶことにした。
「えー!俺に入れてくれないの?」
後ろで蓮見が騒いでいるが、全力で無視する。
(クイーンはどうしようか)
候補の写真に目を走らせる。
長いストレートの黒髪の西園寺響子が目に入った。
ふと脳裏に漫画で読んだシーンがよぎった。
高3のクリスマスパーティーに、西園寺響子と婚約発表をした天城。それを目撃した白石透は絶望に打ちひしがれる。それは、自分を長い間苦しめてきた張本人と、好きな人が結ばれてしまったという結果もあるが、ずっと心のどこかで憧れていた、キングとクイーンに天城と西園寺が選ばれたというのも引き金になっていた。そして選ばれた二人が婚約発表をも行ったものだから、白石透の精神はズタボロだっただろう。
(今回も天城と西園寺が選ばれる可能性は高いかな)
しかし、それはそれでいいと思った。
とにかく西園寺が人目に晒されていれば安心だ。
「では、投票してくるわ。ここで別れましょうか」
天城にそう言うと、蓮見が反応した。
「白石ちゃん、どこ行くの?ダンスは?」
「ダンス?」
私は足を止めた。
「うん。一緒に来たパートナーとダンスするっていうしきたりがあるじゃん」
(え、聞いてない…)
天城の方を見たが、無表情すぎて何を考えているか分からない。
「それは、必ず参加…?」
恐る恐る私は聞き返す。
「そうだね。参加しなかった人は過去に一人もいないかも」
更に詳しいことを聞くと、ダンスの後カップルで写真を撮るらしい。それが卒アルに載るとか。
当惑している表情を出さないように努力するが、心の中は大暴れだった。
(ヤバい!どうしよ!運動全般得意だけど、ダンスだけは不得意なんだよ~!妹よ、肝心なところを伝え忘れているぞー!)
「と、とりえあず投票してきますわ」
一旦、カップルダンスのアナウンスが流れるまでは、その場を離れることにした。
クリスマスパーティーが開始してからだいぶ経っているせいか、会場は既に熱気で包まれていた。体育館全体にクリスマスの装飾を施されており、中央には天井まで届きそうな巨大なクリスマスツリーが飾られていた。
(もはや体育館の原型をとどめてない…)
前方の方では、生のバンド演奏があり、その音楽に合わせて楽しそうに踊っている生徒が至る所でにグループになっている。
端には食事が並べられており、数十人のシェフが出来たての料理を提供している。基本的には立食ではあるが、丸テーブルやいすも用意されており、踊り疲れた人はそこで休憩しているのが見えた。
「あれ、海斗は?」
入り口でぼーっと立っていると、先に会場に入っていた蓮見が声を掛けて来た。
「後ろにいるわ」
藤堂とは別れたのだろうか。彼女の姿は見えない。
「とりあえず、コートはクラークに預けて来なよ。暑いでしょ」
蓮見が指さす方を見ると、簡易的に作られたクラークがあった。
そこで荷物やコートを預かってくれるようだ。
私は白いファーの付いたコートを脱ぎ、クラークに預けた。
すると、その隣にあるテーブルにいた学生が私に声を掛けた。
「出席確認とカップルチケットの登録はこちらです」
「ああ…」
(そうだった。カップルチケットが要るんだっけ)
面倒臭いと思いながらまだ近くにいた蓮見に声を掛ける。
「蓮見さん、登録は?」
蓮見は私を見て、苦笑いをした。
「俺はもうしちゃったんだよね。さっきの子と」
「ああ…」
(手近に済まそうとしたが、残念)
仕方がないと天城を探すが、まだ会場内に入って来ていないようだ。
「あなたが藤堂さんを誘ったの?」
「うん。まあ、頼まれて…」
「誰に?」
私は蓮見の顔を見た。
「誰って、かい…」
「余計なこと言うな」
後ろから天城が現れ、蓮見の首に腕を回した。
「ちょ、ちょっと冗談だって!」
「口を開くな」
二人でじゃれ合っているところを見ると、私はつくづく青春だなと思ってしまう。
(高校生って本当に若いわ…)
「天城さん。一緒にチケットの登録をお願いしたいのだけど」
天城は蓮見から手を離すと大きなため息を吐き、受付の方へと足を向けた。
(そんなあからさまに面倒臭がらなくても)
私はその後ろを追いかける。
(確かに、さっき助けはいらないと言ったけれども。これくらい…)
もう少し天城が優しければ、るーちゃんも嬉しかったと思うのに。
そんな風に考えながら、まじまじと天城の後ろ姿を見つめた。
(まあ、白石透を嫌う設定だから無理か)
二人分のチケットを貰い、投票方法の説明を受ける。
巨大なクリスマスツリーの下に、投票箱があり、キングとクイーンを同学年の生徒の中から一人ずつ選ぶ。もちろん、自分の友人を選んでもいいし、自己推薦をしてもよし。人が多くて分からないと言う人は、キングとクイーン候補の中から選んでもよいとのことだ。
「候補がいるのね」
受付の横には、男女の写真がずらりと並んでいた。真徳高校の1年生から3年生まで、学年ごとにキングとクイーン候補が選ばれ、貼りだされている。
1年のクイーン候補には、藤堂茜や西園寺響子も入っていた。そして、キングにはもちろん天城、蓮見、五十嵐の三人が候補として挙がっていた。
(面倒臭いな。天城にいれておけばいいか)
そんなことを思いながらちらりと横を見ると。
俺に投票したら殺す、と瞳が物語っている険しい表情の天城がいた。
「そんな目で見なくても。五十嵐さんに入れるわよ」
安全牌の五十嵐を選ぶことにした。
「えー!俺に入れてくれないの?」
後ろで蓮見が騒いでいるが、全力で無視する。
(クイーンはどうしようか)
候補の写真に目を走らせる。
長いストレートの黒髪の西園寺響子が目に入った。
ふと脳裏に漫画で読んだシーンがよぎった。
高3のクリスマスパーティーに、西園寺響子と婚約発表をした天城。それを目撃した白石透は絶望に打ちひしがれる。それは、自分を長い間苦しめてきた張本人と、好きな人が結ばれてしまったという結果もあるが、ずっと心のどこかで憧れていた、キングとクイーンに天城と西園寺が選ばれたというのも引き金になっていた。そして選ばれた二人が婚約発表をも行ったものだから、白石透の精神はズタボロだっただろう。
(今回も天城と西園寺が選ばれる可能性は高いかな)
しかし、それはそれでいいと思った。
とにかく西園寺が人目に晒されていれば安心だ。
「では、投票してくるわ。ここで別れましょうか」
天城にそう言うと、蓮見が反応した。
「白石ちゃん、どこ行くの?ダンスは?」
「ダンス?」
私は足を止めた。
「うん。一緒に来たパートナーとダンスするっていうしきたりがあるじゃん」
(え、聞いてない…)
天城の方を見たが、無表情すぎて何を考えているか分からない。
「それは、必ず参加…?」
恐る恐る私は聞き返す。
「そうだね。参加しなかった人は過去に一人もいないかも」
更に詳しいことを聞くと、ダンスの後カップルで写真を撮るらしい。それが卒アルに載るとか。
当惑している表情を出さないように努力するが、心の中は大暴れだった。
(ヤバい!どうしよ!運動全般得意だけど、ダンスだけは不得意なんだよ~!妹よ、肝心なところを伝え忘れているぞー!)
「と、とりえあず投票してきますわ」
一旦、カップルダンスのアナウンスが流れるまでは、その場を離れることにした。