初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
 その日のケイトは、ミッドナイトブルーのドレスを身に着けた。レースもふんだんに使われており、施されている刺繍も繊細なものである。
 このような色合いのドレスを、ケイトは今まで着たことがない。カーラ商会の新商品でもあるため、父親はそれを宣伝したかったようだ。
 煌々と輝くシャンデリアの光によって、そのドレスはシルバーにも見える。
 色素の薄い象牙色の髪ともよく似合っていた。そしてはかなげに見える若草色の瞳。

 そのアンバランスさが、夜会に出席している男性を虜にした。
 ましてカーラ商会長の娘となれば、結婚の相手に相応しい地位と資金もある。彼女をダンスに誘った男は、誰もがそう思ったはず。

 この縁を確実なものにしたいのだろう。少しだけ強引に事をすすめようとする者もいた。

 ただ、こういった夜会に慣れていないケイトは、人の多さに当てられ、気分が悪くなる。それに気づいたラッシュは、彼女を休憩室へと案内した。
 ソファでうとうととしていたら、なぜか目の前に半裸のイアンがいたのだ。
 ケイトのドレスは乱れ、肌が露わになっている。

 何が起こったか。何が起きたのか。
 ケイトの悲鳴を聞きつけてやってきたのは、ラッシュ、そしてイアンの父親でもあるダリル侯爵。たまたま二人は、近くで歓談に耽っていたらしい。

 ここで何が起きたのかは、その場にいた者だけの秘密となる。
 けして外に漏らしてはならない。

 それから二か月後、ケイトはイアンと結婚をした。


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