別れの曲
 お腹が大きくなり始めた頃から、美那子は仕事を一時休止とした。
 そうなってからは第一に、美那子は涼子にその旨で謝りを入れた。夫である仁三がカバーに入るような場面であろう事までも、これからは全て涼子へと回ることになるからだ。
 出来ることは極力するつもりだが、と続ける美那子に、涼子は優しく、好きでやっていることだから、と笑って頷いた。
 それは気遣いでも何でもなく、ただ本心からの言葉であった。
 これほどまでに恵まれていたのかと噛み締めつつ、検査などで産婦人科に通いながら、出来るだけ身体を休めた。

 しかし、一難去ってから訪れるものは、決まって次の一難。それは、妊娠三十五週を過ぎた頃。
 発熱、そして子宮付近の圧痛といった身体の不調を訴えた美那子は、腕が良く名の知れている医師の元へと入院することとなった。

 そうして運ばれてすぐに、助産師が胎児の心音を聴いたところ、確かに元気に聴こえはするものの、それは双子にしては小さかったことに違和感を覚えた。
 まるで、一つしか聴こえないかのように。

 最悪の事態を恐れ、すぐに検査を行ったところ、片方の胎児が死亡していることが確認された。
< 43 / 83 >

この作品をシェア

pagetop