別れの曲
そうだ。母のことを話す為だというのなら、あの桐の箱を置いておく必要はない。母の病気のこと、離婚のこと、それらはいずれ分かることかも知れないけれども、あれさえなければ、陽向のことについては知りようがなかった。
あの時の一さんの反応からも、それはそうなのだろうと思う。
私が姿を現した時ですらある程度冷静だった一さんが、あの箱を見せた瞬間だけは、心底驚いたような表情をしていた。
ただ自分の存在を露呈させるため、あるいは私に母のことを教える為、と言うのであれば、臍の緒の存在は話をややこしくするだけだ。
(一体誰が――まさか)
気を失って運ばれた病院で、私は涼子さんに、写真以外に何かあったかと尋ねた。
涼子さんは『何もない』と言っていたけれど、答えとしてはおかしい。普通なら『何もなかった』と言う筈だ。
私なら、少し考えればおかしいと気付けることだった。
運ばれた病院で、涼子さんは知らないような口ぶりだったけれど、あの箱が昔からあの場所にあったのなら、涼子さんがそれだけを知らないとは考え辛い。
知らなかったんじゃない。知らないフリをしたのだ。
『えっと……ガラス以外に、何かなかった……?』
『以外? 倒れた貴女と、あの写真くらいだけれど――ええ、何もないわ』
私のことで冷静ではいられなかった、ということも勿論あるだろうけれど、結果無事であった私からの問いかけに、しばらく考えた後であの答えを出した。あの箱の存在を知らない人間だったなら『そう言えば見慣れない箱があったわね』とでも答えそうなものだ。
加えて言うなら、今回のことにどれだけ深くかかわっているかは分からないけれど、それを除けば、涼子さんは昔から嘘を嫌う性格だった。
ちょっとした冗談も、好奇心から吐く嘘も、一切口にしたことがない。
私がまだ幼かった頃、ふとした好奇心から吐いた嘘の一つだって、涼子さんは厳しくしつけてくれた。嘘はいけないことだって、叱ってくれた。
私からの問いかけや疑問には「どうしてそう言うの?」「どうしてそう聞きたいの?」と理由を求めるのが普通だった。
軽い怪我とともに意識まで失っておいて、それらのことで迷惑をかけた涼子さんへの謝罪ではなく「何となく見たくなって」と話す私に、どうしてそう聞いてくれなかったのか。少し考えれば、おかしいと気付けたはずだ。
反対に、涼子さんが嘘を吐こうとする時には、全て私か母が見破って来た。
包丁で指を切った時。母の好きだったお皿を割ってしまった時。先日、熱を出して電話をかけて来た時ですら、涼子さんは決まって「何もないわ」と笑っていた。
私があの時、箱を見つけていようがそうでなかろうが、涼子さんはそのままにしておくだけの理由があったのだ。
あれ以上に私が言及するようなことになっていたならば、無駄な言葉を重ね、あるいは私が嘘を見抜いていたかもしれない。
しかしあの時は、私からすればその方が都合が良かったから、それ以上詮索するようなことはしなかったのだ。
(そっか……だから)
初めからあんなところに箱があったのなら、今までにも気が付いた筈だ。棚と同系色だとか、高さによる違いだとか、そんな話でもない。もしあそこに箱があったならば、母も涼子さんも、写真を手に取って私に見せてくれるようなことはなかった筈だ。
つまりあれは、そんな頃よりももっと後――つい最近になってあそこに置かれたということだ。
一さんは家にいない。
箱を置いておけるのは、涼子さんしかいない。
私に、それを見つけさせようと仕向けていたんだ。
「臍の緒……あれ、ほんとならどこに仕舞ってたんでしょう。ピアノのある部屋に置いてあったんです。見つけたのはたまたまでしたけど、普通なら置いてないような場所でした。あれって、もしかして――」
「十中八九、涼子さんだろうね。彼女もどうやら、僕と似たような考えだったらしい」
「……です、よね」
涼子さんは涼子さんで、独断で、上手い具合に重なる時期に、別の動きをしてしまっていたというわけだ。
他に例外があるとするならば、それは私自身の選択だ。
そのヒントの数々をどう咀嚼し、どう動き出すかまでは、予想の範疇をどうしても越えない。
私と陽向くんとのやり取りまでは、どうしたって知ることが出来ないものだ。知り得ない筈の相手と話し、ピアノに触れて、気持ちが変わるなどと、一体誰が予想出よう。
「一さんは……その、どうして、今回のようなことを?」
私の質問に、一さんは黙り込んでしまった。
俯き、長い前髪が落とす影のせいで表情は分からないけれど、強く、唇を噛んでいることだけは見て取れた。
少しすると、大きく息を吐いて顔を上げた。
「美那子から陽向が亡くなったことを聞いた時、その瞬間強く『戻らないと』と思った。戻って、僕が美那子を、そして君を支えていかないと、と思った。でも、そうすればやっぱり、少なからず収入は減っていく。助けたいのに、助けられなくなる。護りたいのに、護ることが出来なくなるんだ……その方が、よっぽど怖いと思った。手が届く距離にいて何も進まないより、例え離れていたとしても、出来るだけ長く、そして可能な限り明るく、君と美那子には、笑っていて欲しかったんだよ」
一さんは、ようやく感情的な言葉を吐露した。
これまでは大きく表情を変えることなく、身体を動かすことなく、真面目に語って聞かせてくれるだけだった。少しばかり冷静すぎるようにも見えて、どこか怖かった。
けれどもそんなこと、徹し切れるはずがなかったんだ。
愛した人と一緒になって、子どもを授かって、会わなくなったって、その理由が嫌いになったからでないのなら、その気持ちが冷めることなんてあるはずがなかったんだ。
母とまた向かい合い、新しい命と笑い、日々を過ごしたいと誰より強く願っていたのは、他でもない、一さんだった。
「本当はずっと、ずっと後悔していた……決断を急いでしまったと、後になって辛くなった。今だってそうさ。愛する妻と、その子どもである君、その二人と一言も口が聞けないなんて……そんなの、耐えられる筈がない。それでも、お金の為、治療と研究の為、そして君たちの生活の為に、仕事で自分の隙間を埋めることを選んだ。あぁ、もう自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた……一緒にいたいって思いは確かにあるのに、それを選んだら一緒にいられる時間が短くなる可能性が高くなる。それなら影に徹して、会わないようにしようって、そう誓った。誓った、はずだったのに……なのに、どうして……どうして僕は、君に手紙を書いたんだろうね……」
一さんはまた、強く唇を噛んだ。力の入り過ぎた両腕は震えている。
どうしようもないくらいに辛かったんだと、痛いくらいに伝わって来て、私は胸の辺りに言い知れない気持ち悪さを覚えた。
「一さん……」
それが分かってしまったからには、私は聞かなければならない。
「一さんは、どう思ってるんですか……? 秘密とか、決めたこととかじゃなくて、あなたの気持ちはどうなんですか……?」
一さんは、余計な言葉で濁すことなく言った。
「全て手遅れになる前に――愛する家族に、どうしても会いたくなったんだ」
一さんだって一人の人間だ。冷酷でも冷徹でもない、ただの人間。
独りを好んで別れたのなら別だ。けれど、それはそうせざるを得なかったからこそだ。
そんな人間が、愛する者たちと離れ離れになって、寂しさを、悔しさを、感じないはずなかったんだ。
愛があるからこそ一度は別離の道を選びながらも、愛があるからこそ、今こうして戻りたいと願っている。
収入とか、治療とか、そういう現実的な話ではない。
気持ちの上では、感情では、そんなことに耐えられるはずがなかったんだ。そんなことを、もう十六年も続けて来たのだから。
いい歳をした大の大人が、それも男性が、みっともなく涙を流し、鼻水まで拭っているような様子を見てしまった私には、それが苦しいくらいに分かってしまった。
悲しさも、悔しさも、それを必死に堪えて来たんだろうということも。
「――母のこと、陽向のことも、聞けてよかったです。一さんの口から。ありがとうございました」
私が頭を下げると、一さんは驚いたように俯いていた頭を上げ、目を丸くした。
「まさか、礼を言われるなんてね」
「私の父は死別したわけでも、まして私たちがすてられたわけでもなかった。それが分かっただけで、あなたには礼を言わなくてはいけないと、そう思っただけです」
「美那子のことは――」
「ちゃんと、これから話し合います。母と、涼子さんと。あと――」
少しばかり躊躇いつつも、私は敢えて口にする。
「――陽向とも」
私の言葉に、一さんは思わずといった様子で「えっ?」と言葉を零した。
「何でもありません。忘れてください。それより、どうしてずっと手紙でのやり取りを? 私の目をかいくぐるだけなら、その内メールでのやり取りに変えても良かったんじゃないですか?」
「え? ああ、簡単な話だよ。美那子、機械には弱いだろう?」
「あっ、確かに。なるほど、そういうことでしたか」
「僕はやめとけって言ったんだけどね。『陽和とおそろいのスマホにするんだ』って聞かなくてね」
「そんなことまで話してたんだ。まぁいいや。今日はありがとうございました。あまり長居をするのも悪いですし、そろそろお暇させて貰いますね」
「気を付けて――いや、ちょっと待ちなさい」
引き止められた私は、荷物を抱え直したところで足を止めた。
一さんは近くにあったメモを千切り、殴り書きにしたものを、振り返った私に手渡す。
「僕の番号とアドレスだ。何かあったら頼ってくれ。僕自身がこれ以上後悔しないためにも、必ず、君たちの力になると約束する」
強く、はっきりとした言葉に、私はしかとそれを受け取った。
そうして、最後に深く頭を下げてから、私はマンションを後にした。
あの時の一さんの反応からも、それはそうなのだろうと思う。
私が姿を現した時ですらある程度冷静だった一さんが、あの箱を見せた瞬間だけは、心底驚いたような表情をしていた。
ただ自分の存在を露呈させるため、あるいは私に母のことを教える為、と言うのであれば、臍の緒の存在は話をややこしくするだけだ。
(一体誰が――まさか)
気を失って運ばれた病院で、私は涼子さんに、写真以外に何かあったかと尋ねた。
涼子さんは『何もない』と言っていたけれど、答えとしてはおかしい。普通なら『何もなかった』と言う筈だ。
私なら、少し考えればおかしいと気付けることだった。
運ばれた病院で、涼子さんは知らないような口ぶりだったけれど、あの箱が昔からあの場所にあったのなら、涼子さんがそれだけを知らないとは考え辛い。
知らなかったんじゃない。知らないフリをしたのだ。
『えっと……ガラス以外に、何かなかった……?』
『以外? 倒れた貴女と、あの写真くらいだけれど――ええ、何もないわ』
私のことで冷静ではいられなかった、ということも勿論あるだろうけれど、結果無事であった私からの問いかけに、しばらく考えた後であの答えを出した。あの箱の存在を知らない人間だったなら『そう言えば見慣れない箱があったわね』とでも答えそうなものだ。
加えて言うなら、今回のことにどれだけ深くかかわっているかは分からないけれど、それを除けば、涼子さんは昔から嘘を嫌う性格だった。
ちょっとした冗談も、好奇心から吐く嘘も、一切口にしたことがない。
私がまだ幼かった頃、ふとした好奇心から吐いた嘘の一つだって、涼子さんは厳しくしつけてくれた。嘘はいけないことだって、叱ってくれた。
私からの問いかけや疑問には「どうしてそう言うの?」「どうしてそう聞きたいの?」と理由を求めるのが普通だった。
軽い怪我とともに意識まで失っておいて、それらのことで迷惑をかけた涼子さんへの謝罪ではなく「何となく見たくなって」と話す私に、どうしてそう聞いてくれなかったのか。少し考えれば、おかしいと気付けたはずだ。
反対に、涼子さんが嘘を吐こうとする時には、全て私か母が見破って来た。
包丁で指を切った時。母の好きだったお皿を割ってしまった時。先日、熱を出して電話をかけて来た時ですら、涼子さんは決まって「何もないわ」と笑っていた。
私があの時、箱を見つけていようがそうでなかろうが、涼子さんはそのままにしておくだけの理由があったのだ。
あれ以上に私が言及するようなことになっていたならば、無駄な言葉を重ね、あるいは私が嘘を見抜いていたかもしれない。
しかしあの時は、私からすればその方が都合が良かったから、それ以上詮索するようなことはしなかったのだ。
(そっか……だから)
初めからあんなところに箱があったのなら、今までにも気が付いた筈だ。棚と同系色だとか、高さによる違いだとか、そんな話でもない。もしあそこに箱があったならば、母も涼子さんも、写真を手に取って私に見せてくれるようなことはなかった筈だ。
つまりあれは、そんな頃よりももっと後――つい最近になってあそこに置かれたということだ。
一さんは家にいない。
箱を置いておけるのは、涼子さんしかいない。
私に、それを見つけさせようと仕向けていたんだ。
「臍の緒……あれ、ほんとならどこに仕舞ってたんでしょう。ピアノのある部屋に置いてあったんです。見つけたのはたまたまでしたけど、普通なら置いてないような場所でした。あれって、もしかして――」
「十中八九、涼子さんだろうね。彼女もどうやら、僕と似たような考えだったらしい」
「……です、よね」
涼子さんは涼子さんで、独断で、上手い具合に重なる時期に、別の動きをしてしまっていたというわけだ。
他に例外があるとするならば、それは私自身の選択だ。
そのヒントの数々をどう咀嚼し、どう動き出すかまでは、予想の範疇をどうしても越えない。
私と陽向くんとのやり取りまでは、どうしたって知ることが出来ないものだ。知り得ない筈の相手と話し、ピアノに触れて、気持ちが変わるなどと、一体誰が予想出よう。
「一さんは……その、どうして、今回のようなことを?」
私の質問に、一さんは黙り込んでしまった。
俯き、長い前髪が落とす影のせいで表情は分からないけれど、強く、唇を噛んでいることだけは見て取れた。
少しすると、大きく息を吐いて顔を上げた。
「美那子から陽向が亡くなったことを聞いた時、その瞬間強く『戻らないと』と思った。戻って、僕が美那子を、そして君を支えていかないと、と思った。でも、そうすればやっぱり、少なからず収入は減っていく。助けたいのに、助けられなくなる。護りたいのに、護ることが出来なくなるんだ……その方が、よっぽど怖いと思った。手が届く距離にいて何も進まないより、例え離れていたとしても、出来るだけ長く、そして可能な限り明るく、君と美那子には、笑っていて欲しかったんだよ」
一さんは、ようやく感情的な言葉を吐露した。
これまでは大きく表情を変えることなく、身体を動かすことなく、真面目に語って聞かせてくれるだけだった。少しばかり冷静すぎるようにも見えて、どこか怖かった。
けれどもそんなこと、徹し切れるはずがなかったんだ。
愛した人と一緒になって、子どもを授かって、会わなくなったって、その理由が嫌いになったからでないのなら、その気持ちが冷めることなんてあるはずがなかったんだ。
母とまた向かい合い、新しい命と笑い、日々を過ごしたいと誰より強く願っていたのは、他でもない、一さんだった。
「本当はずっと、ずっと後悔していた……決断を急いでしまったと、後になって辛くなった。今だってそうさ。愛する妻と、その子どもである君、その二人と一言も口が聞けないなんて……そんなの、耐えられる筈がない。それでも、お金の為、治療と研究の為、そして君たちの生活の為に、仕事で自分の隙間を埋めることを選んだ。あぁ、もう自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた……一緒にいたいって思いは確かにあるのに、それを選んだら一緒にいられる時間が短くなる可能性が高くなる。それなら影に徹して、会わないようにしようって、そう誓った。誓った、はずだったのに……なのに、どうして……どうして僕は、君に手紙を書いたんだろうね……」
一さんはまた、強く唇を噛んだ。力の入り過ぎた両腕は震えている。
どうしようもないくらいに辛かったんだと、痛いくらいに伝わって来て、私は胸の辺りに言い知れない気持ち悪さを覚えた。
「一さん……」
それが分かってしまったからには、私は聞かなければならない。
「一さんは、どう思ってるんですか……? 秘密とか、決めたこととかじゃなくて、あなたの気持ちはどうなんですか……?」
一さんは、余計な言葉で濁すことなく言った。
「全て手遅れになる前に――愛する家族に、どうしても会いたくなったんだ」
一さんだって一人の人間だ。冷酷でも冷徹でもない、ただの人間。
独りを好んで別れたのなら別だ。けれど、それはそうせざるを得なかったからこそだ。
そんな人間が、愛する者たちと離れ離れになって、寂しさを、悔しさを、感じないはずなかったんだ。
愛があるからこそ一度は別離の道を選びながらも、愛があるからこそ、今こうして戻りたいと願っている。
収入とか、治療とか、そういう現実的な話ではない。
気持ちの上では、感情では、そんなことに耐えられるはずがなかったんだ。そんなことを、もう十六年も続けて来たのだから。
いい歳をした大の大人が、それも男性が、みっともなく涙を流し、鼻水まで拭っているような様子を見てしまった私には、それが苦しいくらいに分かってしまった。
悲しさも、悔しさも、それを必死に堪えて来たんだろうということも。
「――母のこと、陽向のことも、聞けてよかったです。一さんの口から。ありがとうございました」
私が頭を下げると、一さんは驚いたように俯いていた頭を上げ、目を丸くした。
「まさか、礼を言われるなんてね」
「私の父は死別したわけでも、まして私たちがすてられたわけでもなかった。それが分かっただけで、あなたには礼を言わなくてはいけないと、そう思っただけです」
「美那子のことは――」
「ちゃんと、これから話し合います。母と、涼子さんと。あと――」
少しばかり躊躇いつつも、私は敢えて口にする。
「――陽向とも」
私の言葉に、一さんは思わずといった様子で「えっ?」と言葉を零した。
「何でもありません。忘れてください。それより、どうしてずっと手紙でのやり取りを? 私の目をかいくぐるだけなら、その内メールでのやり取りに変えても良かったんじゃないですか?」
「え? ああ、簡単な話だよ。美那子、機械には弱いだろう?」
「あっ、確かに。なるほど、そういうことでしたか」
「僕はやめとけって言ったんだけどね。『陽和とおそろいのスマホにするんだ』って聞かなくてね」
「そんなことまで話してたんだ。まぁいいや。今日はありがとうございました。あまり長居をするのも悪いですし、そろそろお暇させて貰いますね」
「気を付けて――いや、ちょっと待ちなさい」
引き止められた私は、荷物を抱え直したところで足を止めた。
一さんは近くにあったメモを千切り、殴り書きにしたものを、振り返った私に手渡す。
「僕の番号とアドレスだ。何かあったら頼ってくれ。僕自身がこれ以上後悔しないためにも、必ず、君たちの力になると約束する」
強く、はっきりとした言葉に、私はしかとそれを受け取った。
そうして、最後に深く頭を下げてから、私はマンションを後にした。