別れの曲
気兼ねなく、後のことを考えないで済むよう、一日の一番最後の時間から、私はレッスンをつけてもらっている。それは他でもない、杏奈さんからの提案だった。
今、杏奈さんの元で習っている生徒さんの中で、コンクール等に出る予定がるのは私しかいないからだそうだ。
互いに熱が入り過ぎると、レッスン時間である三時間を優に過ぎ、四時間、下手をすればそれ以上経ってしまうことも稀ではなかったけれど、そこは杏奈さんが『熱が入り過ぎちゃった、ごめんなさい』と笑い飛ばして、延長分の料金は断られた。
私も一緒に忘れてしまっているのに。
演奏の方はと言うと、まだまだ修正点はあるものの、課題もそれなりに払拭出来ていると、杏奈さんの太鼓判を押されるくらいの成長は出来ていた。
このままの調子で上達していけるなら、予選を通過することも夢物語ではなさそうだ、なんて杏奈さんは語っていた。
しかし私としては、そんな杏奈さんからの賛辞より、改善すべき点の方に意識が向いていた。だからこそ、今日も今日とて時間を過ぎて、結果――
「十時前……やりすぎちゃったわね」
「ですね……ふぅ、さすがにくたくたです」
学校の後、レッスン開始は十七時。実に五時間近く、休むことなくぶっ続けでそれだけの時間弾き続けていたことになる。
知らない間にスタミナもついてきていたらしい。こうしてきっぱりと手を離すまで、気が付かなかった。
「美那子には私の方から連絡しておくから、今日はこのまま夕飯を食べて行ってちょうだい」
それは突然の誘いだったけれど、私にとっては喜ばしいことだった。まだまだ聞きたいこと、話したいことが、ピアノ関連とそれ以外でも沢山あったからだ。
そんなことを思っている間にも、杏奈さんは母に連絡を取っており――なぜか、今晩はここに泊めて貰う運びとなった。
車で送って行くから大丈夫だと言う杏奈さんに『十年近いペーパーのくせに』と返す母の声が漏れ聞こえていたけれど、瞬間「うぐっ」と普段の様子からは想像もつかないような情けない声が出ていた辺りは、聞かなかったことにしておいた。
慣れてるのね、上手ねと褒められて、やや恥ずかしくなりながらも二人で準備した夕餉を摂り終えて、順番でお風呂も済ませ、布団を敷いてしまったら、あっという間に就寝の時間。
食べながら、また寝ころびながら、杏奈さんはピアノのことについて色々と教えてくれた。
全部覚えられている訳ではないけれど、それはまた、夢の中で陽向に聞いて復習出来る。
そう思って床に就いてみれば、陽向も同じように干渉したがったのか、私の意識は、またあの世界へと落ちていった。
今、杏奈さんの元で習っている生徒さんの中で、コンクール等に出る予定がるのは私しかいないからだそうだ。
互いに熱が入り過ぎると、レッスン時間である三時間を優に過ぎ、四時間、下手をすればそれ以上経ってしまうことも稀ではなかったけれど、そこは杏奈さんが『熱が入り過ぎちゃった、ごめんなさい』と笑い飛ばして、延長分の料金は断られた。
私も一緒に忘れてしまっているのに。
演奏の方はと言うと、まだまだ修正点はあるものの、課題もそれなりに払拭出来ていると、杏奈さんの太鼓判を押されるくらいの成長は出来ていた。
このままの調子で上達していけるなら、予選を通過することも夢物語ではなさそうだ、なんて杏奈さんは語っていた。
しかし私としては、そんな杏奈さんからの賛辞より、改善すべき点の方に意識が向いていた。だからこそ、今日も今日とて時間を過ぎて、結果――
「十時前……やりすぎちゃったわね」
「ですね……ふぅ、さすがにくたくたです」
学校の後、レッスン開始は十七時。実に五時間近く、休むことなくぶっ続けでそれだけの時間弾き続けていたことになる。
知らない間にスタミナもついてきていたらしい。こうしてきっぱりと手を離すまで、気が付かなかった。
「美那子には私の方から連絡しておくから、今日はこのまま夕飯を食べて行ってちょうだい」
それは突然の誘いだったけれど、私にとっては喜ばしいことだった。まだまだ聞きたいこと、話したいことが、ピアノ関連とそれ以外でも沢山あったからだ。
そんなことを思っている間にも、杏奈さんは母に連絡を取っており――なぜか、今晩はここに泊めて貰う運びとなった。
車で送って行くから大丈夫だと言う杏奈さんに『十年近いペーパーのくせに』と返す母の声が漏れ聞こえていたけれど、瞬間「うぐっ」と普段の様子からは想像もつかないような情けない声が出ていた辺りは、聞かなかったことにしておいた。
慣れてるのね、上手ねと褒められて、やや恥ずかしくなりながらも二人で準備した夕餉を摂り終えて、順番でお風呂も済ませ、布団を敷いてしまったら、あっという間に就寝の時間。
食べながら、また寝ころびながら、杏奈さんはピアノのことについて色々と教えてくれた。
全部覚えられている訳ではないけれど、それはまた、夢の中で陽向に聞いて復習出来る。
そう思って床に就いてみれば、陽向も同じように干渉したがったのか、私の意識は、またあの世界へと落ちていった。