別れの曲
 二次予選当日。

 朝、私は、自分でも怖いくらいに落ち着いていた。
 夜は熟睡でき、呼吸も整っていて、コンディションはばっちり。
 杏奈さんの家からそのままタクシーで会場まで赴き、自分の番が来るまでは練習室へ籠る予定。その旨は、母や涼子さんにメールで連絡を入れておいた。

 返信が来るのを待っていようかとも思ったけれど、まずは最終確認が先だ。
 母も涼子さんも、メールに返信をしなかったことはない。今確認しないのは、会場で舞台袖に回ってから、最後に一発気合いを入れる為に取っておくのが良いだろうと思ったからだ。
 メールだけ打ってスマホはしまって、楽譜を開く。

 そうしてそれに目を通しながら、私は頭の中に旋律を浮かべ始めた。
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