別れの曲
 どれだけの時間が経っただろうか。
 少し落ち着いてくると、私はこれからどうしようかと考え始めた。
 自分のこと。母のこと。会場に連絡もしなきゃいけないだろう。
 頭の中はまだ整理なんて出来ないけれど、それでも何かしなければならない。
 涼子さんは医師の話を詳しく聞いていて、杏奈さんは少し落ち着きたいからと屋上へ出ている。佳乃は来ていない。陽向には、夢の中でしか会うことが出来ない。
 そんな状況にあって、誰かと何かをすることは出来ない。もっとも、何をする気も起こらないのだけれど。

「いや……私を置いて行かないでよ……お母さん…」

 このまま、誰も頼る宛てがない。
 そう、思っていた時だ。

『何かあったら頼ってくれ。僕自身がこれ以上後悔しないためにも、必ず、君たちの力になると約束する』

 私はふと、あの日一さんから言われた言葉を思い出した。
 念のためにと登録しておいたそれを使う機会なんて、しばらくは巡って来ないだろうと思っていたのに。
 電話帳からそれを選んで、番号を押しかけて、やめて――そんなことを何度か繰り返してようやく、私は一さんへと繋いだ。
 休日とは言え、今はまだ昼間。出てくれるとも限らない。
 半ば祈るようにして迎えた何度目かのコール音の後で、プツっと音が鳴った。

『もしもし、陽和かい? どうした――』

「今すぐ、来てください」

 自分の声でないくらいにか細い声で言った。
 少しの沈黙の後、一さんは答えた。

『今、どこにいるんだい?』
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