愛でられて、絆される
那王は、すぐに電話をかけた。

『あ、那王くん!?』

「うん。絆奈、お疲れ様!」

『終わった?仕事』

「うん、今終わって帰るとこ」

『こんな遅くまで、お疲れ様!
メールも、ありがとう!』

「うん、絆奈もお疲れ様!」

『えーと…今からどのくらいで、帰りつくかな?』

「え?」

『あ、あのね!
今、那王くんのマンションの前にいるの』

「は?
いつから?」

『えーと…仕事終わってそのままだから……』

「じゃあ、メッセージ送ってきた時にはいたの!?」

『あ、うん』

「………」

“連絡ください”というメッセージが、18時37分。
そして今が、21時12分だ。

だいたい、二時間半そこで待っていたことになる。

『あれ?那王くん?
もしもーし!』

「絆奈、急いで帰るから、待ってて!!」
那王はそう言って通話を切り、慌てて店を出た。

駅まで走って、タクシーに乗り込む。
運転手に出来るだけ急いでもらい、マンションへ向かった。

そして着くなり、五千円冊を運転手に渡し「お釣りは結構です」と言って外に出た。

マンションの前では、絆奈がポツリと一人で待っていた。
その姿があまりにも切なくて、那王は胸がギュッと痛んだ。

「━━━━絆奈!!」
駆け寄りながら呼びかけると、バッとこちらを見て嬉しそうに笑った。

「那王くん!
遅くまで、お疲れ様!
これ、コーヒーだよ!
那王くん好きだよね?」

近くの自動販売機で買ったであろう缶コーヒーを渡してくる、絆奈。

「………」
(こんな時でも、僕を労うなんて……)

健気すぎる━━━━━

那王は、絆奈を抱き締めた。
「え?え?那王くん?」

そして戸惑ってる絆奈の手を引き、マンションに入った。

「………」
ずっと無言の那王。

絆奈は、だんだん不安になってくる。
「な、那王くん、ご、ごめんなさい!」

那王を見上げ、必死に謝る。

「ん?どうして謝るの?」

「え?だ、だって、勝手に会いに来ちゃったし」

「会いに来てくれて、僕は嬉しいよ?
例え5分でも、絆奈に会えるの嬉しい」

「で、でも…なんか那王くん、怒ってるみたいだし」

「怒ってるんじゃないよ。
悲しいんだ」

「え……悲し…い…?」
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